応募作177

「街灯の下に」

岡花光鬼

 

チカチカと明滅する街灯の下には、少女が立っている。その白い肌は街灯の光の中で朧げに浮かび、ふわりと柔らかな綿毛を連想させた。けど少女に気づく者は誰もいない、僕を除いて。
一体いつから、何故そこにいるのか。この少女もまた、今にも消えて無くなりそうだった。

少女の足元には小さな花が一輪咲いており、彼女はそれを見守り続けている。花を打つ雨や優しく揺らすそよ風にも、彼女は表情を変えたことはない。
僕は以前彼女の傍に近寄ってみたことがある。けど気づかないのか、視線は足元を向いたままだった。僕は悲しく思いながらも、少し離れた場所から彼女を見守ることにした。
彼女は時々ふと空を見上げる。普段は表情のない彼女が晴れの空をどこか曇った眼差しで見ていたのが印象的だった。彼女の胸の内は、僕にはわかりそうもない。
フッと街灯が消え、ややあってからツンと音を立て明かりを戻した。よかった。まだ彼女はそこにいた。

遠くから賑やかな笑い声が近づいてくる。この路地はミナミから別の場所へ徒歩で移る者が時々通る。大声で話す男と、その話に大笑いで応える女たち。明らかに酔っ払いのそれだ。
僕は咄嗟に物陰に隠れ彼らが通り過ぎるのを待った。すぐ傍にいる少女にはやはり気づく様子はない。
すると男が唾を吐き捨てた。少女が初めて顔をハッとさせる。僕も思わず頭を上げた。唾は少女の足元の花にかかった。少女の目が悲しみで歪む。花は見る見る茶色くなり、萎れ、地に頭をつけた。
街灯が消える。次に点くと、少女の姿はなかった。

とうとう、消えてしまった…。
その後すぐに街灯も消え、明滅を辞めた。

肉体も記憶も失った僕が何故少女に固執したのか。それは結局わからなかった。
今朝河底池に男が浮かんでいたらしいけど、そんなことに興味はない。

煌々と灯るようになった街灯の下で、僕は待っている。
次はタンポポが咲くといいな。

ヒゲがむずつく。雨が降りそうだ。

花はまだ咲きそうにない。