第三回大阪てのひら怪談選考コメント②

「第三回大阪てのひら怪談」の投稿作に審査員が寄せたコメントです。

 ※どの審査員がどのコメントを書いたのかは秘密です。

 

今回は投稿作のレベルが高く本当に悩みました。読み直す度に評価が入れ替わってしまうような状態で、最終的には完全に好みとその時の印象で選んでしまいました。

 

「遺りもの」紅侘助
読み終えてしみじみと「ええなあ」と思えた話。
鎖でぐるぐる巻きにされた傘がどうなるんだろう?と思って最後にパッと花火のような綺麗な傘が一斉に開く情景が浮かびました。
こういう話いいですね。説明部分がクドくなく、さらっと話の中に入っていける点も良かったです。
情報が多いと、説明だけに気を取られている応募者も多かった中で、これは見事でした。

 
「穴」鳴骸
タイトルと最後の1行が取ってつけたような印象を受けましたが、怪談として読んで個人的にはかなり怖いと感じた作品です。
こういう情景って説明しようとしても、いざ文章にしようとするとかなり難しいと思います。

「カッパのおっちゃん」花月
方言で書かれた作品が多かった中、これは1行目からヤラレタ!と感じました。
擬音とテンポよく進む話が見事。
好みだけでいうなら、今回の投稿作の中ではこの作品が一番好きでした。


環状線」泥田某
頭の中で諸星大二郎の絵柄で情景が浮かんで来ました。暗く何ともいえない、こことは違うルールの存在が間近にいるような怖さと不気味さを感じました。

 

「大阪のおっさん」岩里藁人
読んでいると情景が浮かんで『見える』タイプの作品。最後の落ちは予想外でした。

 

「おばはん」剣先あおり
ありきたりな展開と落ちとも取れる話ですが、会話のテンポが良くて読んでいて楽しくなりました。

 
「サンドファンタジー」光原百合
懐かしい!あったあったそういえば!と思ったあの時計。
おまじないの方法も実際にありそうなのと、願掛けの切なさや、怖さも描かれていて読み応えがありました。

 

「気質」君島慧是
途中何度かぷっと笑ってしまいました。落語的なおかしさがいいですね。
でも実際こういう本が手に入ったら持ち主はかなり怖いだろうなあ。

 

「くすぶり」猫吉
将棋は全く分からないのですが、勝負の情景が目に浮かぶようでした。
子供の愛情が切ない。本当に親をそれでも思う子だったんだろうなあ。
 
「小路の神社」剣先あやめ
怪談実話っぽさもあり、読み終えた後も地味に嫌な余韻がいいですね。でも語り部の描写がやや余計に感じるところもありました。もう少し余分なところを削るとグッとよくなると思います。
 
「七不思議の井戸」GIMA
女の声が、聞こえてきたような気がしました。投稿作の中でかなり怖っ!と感じた作品の1つ。

 

「ちょっとヤバいかも」GIMA
描写がリアルで、いいですね。途中後半の展開が予想出来てしまいますが、苔と人の皮でぐう!やられた!と思いました。
映画の「ファイナル・デスティネーション」みたいな怖さの余韻も良かったです。
GIMAさんは今回他の投稿作のレベルも高かったです。
 
「マスコットたち。」水無川
大阪の不人気ゆるキャラだったら、もっとあれやこれがいる!!という点と、何故あえて「ぱなてぃ」という点が気になりましたが、面白かったです。
 
「戻りの橋」ササクラ
粘った水音というのが不穏な感じで、いやあな読後感。怪談には湿気や水辺が似合いますね。

 

「わたしたちを知らない」青山藍明
大阪との関連が薄いのがマイナス点。明確な描写を避け、子供の語りで書かれている分悲愴感が強く漂う。

 

「閉店セール」司條由伊夏
あちこちで見るずっと閉店セールの店の謎がここに! 確かに京都や奈良や兵庫では大阪程閉店セールの店を見ないせいか、強い大阪らしさを感じました。
それにしても落ちが怖いだけじゃなく、切ないなあ。

 

「Y県某村居酒屋にて」田口六
方言で書かれる作品が多かった中、大阪弁でない言葉で書かれた投稿作は異色。
あっぺとっぺなことが気になって調べちゃいました。仙台の方言なんですね。分からない言葉ってだけでも何かおっかなく感じるのに、人殺しなんだから出だしから怖いです。

 

「道頓堀の清掃」築地つぐみ
「あー」嫌だなあ。顔だけじゃなくって声というのが、気持ち悪くって面白かったです。
「あー」

 

 「五代目」貝光脩
意外な落ちの因果物。最後の二行が、二段階のオチなのが面白い。
予想していたのと全く違った結末でした。

 

「河童の住める道頓堀に」御於紗馬
作中に出て来た文献が気になります!是非続編を!
短編くらいの長さで読んでみたいです。

 

「鳥団子鍋」籠 三蔵
食べ物の描写は投稿作の中でもピカ一でした。
優しさと寂しさを同時に味合わせてくれる良い作品。

 

「看板に偽りあり」大庭くだもの
1行目の掴みが◎ 擬音の使い方も見事でショートショートが書きなれている人じゃないかなあと思いました。

 

「大阪七墓」剣先あやめ
昔の人の日記を読み解くというだけでワクワクします。日記の訳が現代的過ぎるのがちょっと気になりましたが、800文字とは思えない読み応えがありました。

 

「にわとり」七
最後の1行がただただ見事。タイトルとのリンクも不穏。ひらがなであることも利いています。

 

「堂地下にある寿司屋」石動さや加
読み終えた後、思わず「やだなー」と声が出てしまいました。
ありそうな不気味さがいいですね。
 
「百円玉」大庭くだもの
生理的な嫌悪感を含んだ怪談。読み終えた後、何故か食欲がなくなりました。
 
「柵」理山貞二
何かが起きそうな予感をずっと漂わせながら進む。
子供時代、あの辺りは確かにちょっと不気味で、何かありそうな気配があった気がします。そういったことを思い出させてくれた作品。
 
「柿の木に」生古麻六万寺
これは、怪談実話でしょうか? 実は似た話を先日聞いたのです。(大阪ではありませんが……)そのせいか、何というかより読んでいてゾッとしてしまいました。
「大阪てのひら怪談」は投稿作と読み手の間に妙なシンクロニティを感じることが時としてありますし、投稿作同士でそれが発生することもあります。

 

「奇妙な実話2題」 GIMA
並べたことで立ち現れるなんとも言えない違和感が強烈。関連付けたくなる心理そのものが闇かもしれない。

 

「陰膳」  里真澄
今回、2度3度と読むことで味わい増す作品が多かった印象ですが、その中で最も情景が変化する作品でした。

 

「祖母の言葉」  剣先あやめ
人の表裏と言葉の表裏がつるりつるりと逃げるように変化して面白かった。

 

「おっさん山」伊止止
ビジュアルもたまらないし、おっさんの態度の変化そのものも怖い

 

環状線」泥田某
ぬるっとした広がりから収束、オチ、面白いなぁ。
そしてつい自分の足下にも何かしら埋まっているのだと思ってしまう

 

「へぐひ」最寄ゑ≠
食い倒れたい!

 

「澱みの下の白き身は」玉川 数
ノレはルか…わははは、と、これは横書きだからのネタかしらん。これまた二度読みで味わいが変わる面白さでした


「太閤はん」中野笑理子
土の匂いが印象的でした

 

「呼ぶ声」文乃
夜の暗闇が今よりも深かった頃の雰囲気があるなと。女の子の気持ちになるとなかなか堪え難い状況です。

 

「橋と顔」極北のヤマダ
フルッ、フルフルッ……と、時々震える顔を想像してブルッとしました。

 

「大阪のおっさん」岩里藁人
日常の隙間でありそうなありそうもない話(だけどこれからありそう)

 

「智子」最東対地
取り返しのつかない歪みに足を取られた感アリです。片道切符なのだろうな…

 

「たたり」籠三蔵
よくある話なのだけれども、電話が…電話の先が…というとこがクルッときました。

 

「おばはん」剣先あおり
おばはんの明るさと状況のズレがグッときました

 

「擬宝珠」榛原正樹
擬宝珠はおばちゃん(失礼)のどんなとこなんです?!

 

「和泉の歓声」安童まさとし
周りから見たら異常なことをしている自分に気がついている、のに辞められてないのが怖い。

「どうしよう」里真澄
これは聴きたい!

 

「ちょっとヤバいかも」GIMA
え…それは皮膚なんですか?!

 

「遣りもの」紅侘助
最後の規模の広げ方素敵です。

 

「鶏団子鍋」籠三蔵
美味しそうです。鶏団子の味わいの幅も美味しい。

 

「サトオカさんは後ろを歩く」玉川数
それ違うやろ!という、読者をツッコミに誘う二重ボケがやり手です。

 

「紅葉の呼び声」坂本光陽
登場人物の若さが怪談を新鮮にしているなぁ。

 

「線路の老人」宝屋
怪異と関係のないであろう人間関係描写とのギクシャクがいいです。

 

「早めに」君島慧是
確かに海遊館にはこんな時間が流れていた気がする…!

 

「ゆれるで」王軽人
母ではない母の声。お話の外側についてイメージが広がります。

 

「小路の神社」剣先あやめ
書いてないことが読みたい!しかし知らない方が良いのだろうなぁ。

 

「カッちゃん」御於紗馬
オチが二回、どちらでも笑わざるをえませんでした!

 

「牲」榛原正樹
臭いがいい感じでした。贅沢言うならば、もうひとつ、予言めいた何かをみたかったです。

 

「穴」鳴骸
人によって音が違う…のか…

 

「見上げる」国東
違う時間の流れ、違う生き物の時間を感じることができたので。

 

中之島城」君島慧是
色んな子供が色んな夢をみる場所なのだろうなぁ。


今回面白さの底上げ凄まじく、うはぁ面白いと選ばせていただきました。
大阪についてもっと詳しければもっと楽しめたろう、そう思わされること多数。ただ、同時に大阪観光しているような気持ちにもなれました。
絵を描きやすいことと面白さというのも一致せず、その辺りもなかなか個人的には興味深いところでした。