2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

応募作29

「遺りもの」 紅侘助 通路が所々狭くなっているので気をつけてくださいね。物が飛び出ていたりするで。 全部で万は下らないでしょうね。小さい物だと箸置きとか針と糸とか。大きい物ですと自動車まではいかなくても、自転車とか大八車なんかはありますね。流…

応募作28

「へぐひ」 最寄ゑ≠ 食べ歩きの一日を陸カフェの満喫セットで〆て、難波から新宿行きのバスに乗る。大たこも美味しかった。蓬莱も美味しかった。十三大橋を渡る頃、夜空にぽっかり空中庭園が浮かんでいた。ああ、お腹いっぱい。何だか眠くなってきちゃった。…

応募作27

「奇妙な実話2題」 GIMA 大阪・和泉市 2004年4月、「子供が犬に噛まれた」という119番通報が入った。通報したのは母親で、子供は生後4ヶ月の二男だった。診察した医師が男児の傷口を不審に思い、和泉署に通報。 調べの結果、母親が鋭利な刃物…

応募作26

「祭の夜」 三割丸菊 「ほら、あれが阿倍野ハルカスでこっちが梅田のスカイビルや」俺の適当な言葉に耳を傾けるわけもなく、タケは「次は、当てもンや!」猛ダッシュで駆けてゆく。「僕も!」頬っぺたを綿菓子でかぴかぴに光らせたしゅんも続く。興奮度マッ…

応募作25

「バス、来ぇへんで」 船生蟹江 暑い夏は嫌いだ。特に胸が蒸れてしょうがない。コンプレックスの大きな乳房を包む布も、胸の突出をどうにかしたくてできた猫背も、鞄を抱え込む立ち方も。全てが悪循環を生むものだった。「暑いなぁ。バス、はよ来んかな」 時…

応募作24

「鞄の持ち主」 船生蟹江 電車に乗っていると、大学生くらいの若い子が声をかけてきました。「あのぅ。おじいちゃん、ちゃんと家に帰れましたか」どういうことかと聞くと、どうやら私が荷物の整理をしようと椅子に並べていた革の小さな鞄を見て話しかけたの…

応募作23

「地下三階…」 花月 初 土佐堀川を背にして建つ古いビルの8階が事務所でした。ホワイトボードに書かれた帰社時刻は未定。〆切近い営業社員は皆いつものことでした。 陽が落ち 外はすでに暗い。「8階事務所出ますー営業は帰るのかどうかわからんし鍵閉めます…

応募作22

「ゆでだこ」 泰子 よく晴れた日曜の朝、いや、もう十一時すぎか。彼女が台所でばしゃばしゃ「朝から何やってるねん」「黒門市場で買うてきた蛸に塩すりこんでるねん。このねばねば、塩で揉んでから茹でんと綺麗に茹で上がれへんのよ」「その蛸何にすんのや…

応募作21

「お好み焼き屋」 泰子 長い間の不倫がやっと清算出来たと、知り合いがお祝いの席を設けた。 お招き頂きいそいそと出かけて行った。 通天閣下でお好み焼きの店をしている女将だが、馴染みの客とねんごろになって久しい。相手の岡田さんは俺も見かけたことが…

応募作20

「路地裏の蛸」 泰子 ぽとん。 なんや? 心斎橋筋の阪急百貨店前を歩いていると、目の前にたこ焼きが落ちてきた。 周りを見回すが、たこ焼き屋もたこ焼き食いながら歩いてる奴もおらん。 アジア系の外国人が、わあわあ解らん言葉で喋りながらスーツケースを…

応募作19

「肉」 最東対地 今から十数年前の話。そびえ立つ通天閣を囲む、浪速の町・新世界に行った時のことだ。今ほど外国人でごった返していなかった新世界は、賑やかではあるものの汚く、小便の臭いとどて焼の匂いが入り混じった場所だった。特にジャンジャン横丁…

応募作18

「智子」 最東対地 松島新地という色街があるらしい。「あるらしい」としたのは、わたし自身聞いた事がなかったからだ。飛田新地は今や観光地として有名で、関西の男で知らない者はいないだろう。しかし、飛田新地以外の色街があるなど考えもしなかったわた…

応募作17

「河内磐船駅の廃病院」 最東対地 交野市にある河内磐船駅を降りたロータリーに車を停め、おれは友人の田中がくるのを待っていた。田中は中学時代からの友人で、会うのは随分と久しぶりだった。仕事の都合で地方に引っ越して以来、十数年ぶりの再会。その機…

応募作16

「ビリケンさんの町」 高家あさひ 私はビリケンさんのいる町に住んでいる。 というとだいたいの人には大阪? と聞かれるが、そうではない。アメリカの、平原を流れてきた大きな川が二本まじわる、そのほとりにある町だ。ここのビリケンさんは大学のマスコッ…

応募作15

「信太森葛葉神社」 籠 三蔵 初秋の冷たさを含んだ雨が、銅拭きの屋根にしとしとと降り注いでいる。地元唯一の有名スポットとも言える北信太の葛葉稲荷は、幼い頃、裏手の公園で友達と遊びに興じた後、神様に挨拶をして帰るうちに、自然と私の心の拠り所とな…

応募作14

「河童のおっちゃん」 花月 初 ワシ 河童やねん。夏休みの解放プールで、上手に泳ぐおっちゃんは 小学生の私にそう言うと 泳ぎを教えてくれた。ソフトボールの練習もみてくれたし 近所の祭りも手伝ってたから町内会の役員でも引き受けてはったのだろう。 あ…

応募作13

「ブタ女」 司條由伊夏 わたしは幼少の頃から肥っていました。それは仕方がありません。食べることが大好きだったのですから。でもわたしは、肥っている自分が嫌いではありませんでした。肥っていることはわたしのアイデンティティーですらあり、だから「デ…

応募作12

「ちょっとヤバいかも」 GIMA あ、もしもしオレオレ。 ちょっとオレさ、ヤバい事になってるかもしれんでさ。 あ? あ、もうそっちにも話行ってるか。 ああ、あいつが車に轢かれてさ。うん。死んだんやけどな。ツレがな、バチが当たったんとちゃうか言う…

応募作11

「七不思議の井戸」 GIMA ここ一年ほど、暇を見つけては、否、無理矢理にでも暇を作って、神社仏閣に参拝している。 目的は縁切りだ。 胸をえぐられるような嫌な記憶と、その元となった人物の記憶一切、自分の頭の中から消えて、精神的に完全に縁切りで…

応募作10

「和泉ナンバー」赤い尻 運転席の窓を叩くのは警察官だ。深夜のコンビニ駐車場で車中にじっとしているのを見咎められたのだ。快く職務質問に応じる。「妻と喧嘩をして咄嗟に家を出て、ここで頭を冷やしていたんです。免許証。は、今持っていません。着の身着…

応募作9

「愛すべき幕末史跡『適塾』」地草研江戸末期の蘭学者・医者の緒方洪庵が船場に開いた「適塾」。維新の人材を輩出し、阪大医学部をはじめ福沢諭吉もここで学び慶応義塾の源流ともいわれています。手塚良仙(手塚治の曽祖父)も門下生で漫画「陽だまりの樹」…

応募作8

「恋人」高家あさひ しばらくのあいだ、私にとって大阪土産といえば、ホワイトチョコレートをクッキーではさんだラングドシャだった。 それは北海道の土産だろう、と言われるかもしれないけれど、大阪に住んでいるひとが、来るたびに買ってきてくれたのだ。…

応募作7

「海な大阪」ふじた ごうらこ……ここは大阪の真ん中やけどな、昔は海の中やったんやでえ、こんな感じやったろうなあ…… みいちゃんは魚の絵本を開いたまま、うとうとしていた。横にいたおばあちゃんが、絵本を覗き込んでいる。まわりは海どころか山もない、マ…

応募作6

「マスコットたち。」水無川 燐 もずさん法師は考える。愛されなかったマスコットたちの行くべき場所を。 ぴこにゃんやうまモンはおろか、えんとくんにもなれなかった大阪のマスコットたち。 つべさん。あべもん。たきのみちゆづる。 名前を聞いても、ほとん…

応募作5

「大国主神社で長いお別れ」水無川 燐 幼いころから行きつけだった、大国町駅近くの神社。 私はいつもお祈りするのだ。 家族のため。それから自分自身のために。 こうしていると、ときどき叔父が話しかけてきてくれるから。 ほら、今日も肩を叩いてくれた。…

応募作4

この世は生きるに値しない」水無川 燐 この世は生きるに値しない。 こちらを覗き込んでくる顔を見るたびにそう思う。 とはいえ、こういう人がいないと僕の方も困るわけです。 訪ねてきたのは、青白い顔をした女性でした。なんだか気の弱そうな人でしたが、い…

応募作3

「DTB48」司條 由伊夏 気づくと劇場の前に立っていた。ここはどこだろう。かすかに川の流れる音が聴こえる。入り口には「DTB48劇場」の文字。NMB48じゃなくって? DTBって……道頓堀? そんなグループが新しくできたのか。引き込まれるように入ってみる。 受付…

応募作2

﹁かす﹂紅侘助 何や︒シケた面して︒また博打に負けたんかいな︒尻の毛までむしられて鼻血も出ぇへんのんか。ほんまにクソやな自分。分かっとるはずや。博打で負けた銭が博打で取り返せるわけないやないか。何べん同じことしたら覚えられるんや。そんなやか…

応募作1

﹁到彼岸﹂赤い尻 なんばを出発すると電車は湾に沿って南下するが、臨海工業地帯の複雑怪奇なプラント群や首長竜を連想させる巨大な港湾設備に阻まれて、車窓から海を拝むことはできない。 悲願叶って授かった息子はようやく乗降扉の縦長なガラス窓に背が届…