2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

応募作66

「おおきに」 長野あき 浮浪者とぶつかった。スーツにワンカップの日本酒がかけられ、安物のアルコールがしみ込んだ。「すんませんなぁ。お兄さん」 瞳が濁り、髭がだらしなく伸びた汚い小男だった。すえた匂いが鼻につき、思わず舌打ちをする。「足がこのと…

応募作65

「灯」 中森臨時 「振り向くとそこには、殺したはずの女が」 さすがにネタ切れか。昨年の大阪てのひら怪談で賞を取った作品だ。 話を終えた直樹が輪の中心まで行き、一吹きで灯りを消す。 これで九十九話。残る蝋燭は一本。もう、自分の隣にいる友人の顔も判…

応募作64

「黒いポルシェ」 葛本益人 その車は、門真市内を走る私鉄の高架線路の下に停めてある。乗り捨ててあると言った方が正しいのかも知れない。長年の土埃が分厚くこびりついた黒のポルシェで、僕が知る限り十年以上そこにある。自転車通勤している僕はフェンス…

応募作63

「終電」 剣先あおり 爺ちゃんは元気だった頃、僕をよく散歩に連れて行ってくれた。両親が共働きだったので、代わりに可愛がってくれたのだと思う。 でも爺ちゃんは調子が悪くなり、一度は入院したけど、すぐに家に帰ってきて、それからずっと奥の和室で寝た…

応募作62

「血」 中森臨時 「俺は純粋な大阪人だから」。昔付き合っていた男の口癖。「俺は純粋な大阪人だから、この味は許せないな」「俺は純粋な大阪人だから、この映画は……。」「寝坊してごめん。俺は純粋な大阪人だから」等々。大阪弁を捨てた人間が何を言ってい…

応募作61

「お地蔵さん」 ふじたま 路地のドンツキにお地蔵さんがある。「めずらしいな。おっちゃんがお地蔵さんにお参りやなんて」「儂かて、お参りしようと思うことぐらいあるわい。けど、うちの死んだ爺ちゃんは、お地蔵さんが恐うてしょうがないとずっと言うてた…

応募作60

「母の話」 たなかかなた とても霊感が強い母は、昔から色々なモノが視えたそうです。母が子供の頃、大阪の親戚に会いに行く時に、必ず通ったトンネルの話を、私にしてくれたことがあります。車の運転は母のお父さん、つまり私の祖父の役割でした。祖父の運…

応募作59

「T教授の論文より」 たなかかなた 「大阪人」という人種の特徴として、明るく、陽気であるということが挙げられる。だが、なぜ彼らはこの様な特徴を持っているのだろうか。この謎について今回、我々は調査した。 結論から言うと、彼らが主食としている食べ…

応募作58

「動物園へ行こう」 鳥原和真 獣舎では、動物が壊れた玩具みたいに同じ順路をぐるぐる回っていた。 檻の中に閉じ込められていると、へんになるのかしら。妻が言った。ストレスよね。当てつけのようだと、私は思う。 夜間開放の物珍しさもあるし、たまには家…

応募作57

「善行」 鳥原和真 激しく罵る声が深夜に聞こえ、戸の隙間から覗くと、父が暴れる祖父をベッドへ力づくで押さえつけている。そんな光景を何度も見た。祖父は、滲みだらけの禿頭を自分の両手で挟みながら、「出せ出せ、地獄だ、こんなかから地獄を出してくれ…

応募作56

「早めに」 君島慧是 「またのご来館を心より」――ペンギンは水のなかを飛ぶ。はじめて来たときもしばらくペンギンのまえで動けなくなったっけ。海遊館に飛びこんだのは閉館四十五分前、先ほどから退出を促すアナウンスが聴こえていた。 気分転換のつもりだっ…

応募作55

「穴からのぞく者」 大和 陽火 これは、私が経験した恐ろしい話だ。私は、数年前まで休日は、ドライブがてら廃墟の写真を撮りに行っていた。廃墟が特別に好きという訳ではないのだが、どことなく引きつけられる魅力があった。 その日、私は、大阪のとある廃…

応募作54

「大阪では何体か倒したらしいぞ」 最寄ゑ≠ ―闇夜に爛、と赤く耀くのはヤタと呼ばれる斥候の目だった。 白ヶ浜から丘に上がった三つ足の脛長の夷狄どもは瞬く間に熊野の山里を蹂躙し、河内の小集落を易易と平らげ乍ら尚も北上、あっさり降伏を申し出た堺衆と…

応募作53

「ちょうもん」 巌岳 糸子 予定変更になったので、大阪城へ足を向けてみたが、日本語の全く耳に入ってこない天守閣から早々に退散。歩き回る内、人気の少ない一角で友人を見つけた。ただし一人ではない、彼女は誰かと話して、いや、言葉少なに相手の話に聴き…

応募作52

「あばうとに、いきます」 巌岳 糸子 とにかくラッキーだった。美術展の入館制限は私たちのあとで締め切られたし、人気の店のランチは急なキャンセルで席が空いたし。 そんな二人は先程まで、予約ができないから入りたければ並ぶしかないというカフェでアフ…

応募作51

「はよ帰りや」 浩光 Aさんの30年ほど前の体験。 金曜の夜。法善寺の境内を抜けてすぐの路地奥のバー。「ジントニック。ゴードンで」。煙草に火を点けた。最近はバーなのに禁煙などという理不尽な店もあるが、やっぱりバーには紫煙がないとな・・・・ ジ…

応募作50

「猫屋敷」 文乃 「お腹すいてへんか?」と、おばぁが言った。私の目の前に出されたのは、お好み焼きだった。大阪出身のおばぁが作る料理は絶品で、私はお好み焼きが大好きだった。おばぁはこの家に一人で住み、九匹もの猫を飼っていた。みんな捨て猫だった…

応募作49

「純喫茶とあの子」 青山藍明 道頓堀でいちばん派手で、よそ行きが似合う、あのお店。 きらきらしたシャンデリアと、おおきなテーブル。 ショーケースのなか、きちんと並んですましている、食品サンプル。 純喫茶、マウンテンはあの子と私、それからみんなが…

応募作48

「線路の老人」 宝屋 もう30年近く経つ。兄弟に誘われて当時自己啓発セミナーとやらに参加した。そこは朝から終電間際まで延々と自己否定から始まりなんの自己啓発だ?と訝しんでそろそろ参加を断ろうとしていた頃だ。 地下鉄に乗り、市内中心部に向かう電車…

応募作47

「待ち合わせ」 文乃 梅田の地下街を私は走っていた。泉の広場にたどり着いたときには、待ち合わせの時間から三十分が過ぎていた。思ったとおり、まわりを見渡しても彼女の姿はなかった。女はいつも遅れてくるくせに、男が遅れてくると怒る生き物だった。昭…

応募作46

「アーム症候群」 坂本光陽 茨高の大先輩,川端康成は、マジ茨木市の誇りやね。 あれ、ラノベ一辺倒のレイちゃんには、ピンとこうへんか。美しい文体、染みわたる神秘、魅惑の幻想譚。究極のファンタジーやで。そこらのベストセラーより、よっぽど読者の心を…

応募作45

「紅葉の呼び声」 坂本光陽 高校生男子は総じてバカである。僕も例外ではない。 きっかけは新聞記事だった。当時、暴力団の抗争が相次いでいた。記事によると、大阪府警が高槻市北部の山間で死体を捜索中だという。襲撃を受けた暴力団員が壮絶なリンチの末に…

応募作44

「アンフォゲッタブル」 坂本光陽 僕が小学生だった頃の話である。 小さい頃から、淡路、池田、豊中と阪急沿線を転々としてきた。茨木の小学校に転校してきたのは、5年生の三学期である。父親の仕事の都合で、すぐに高槻に引っ越したので、茨木にいたのは実…

応募作43

「呼ぶ声」 文乃 「まゆみぃ~ まゆみぃ~」かすかに聞こえる声を耳にした小学生の真由美は急に元気が出てきた。ベッドから飛び出し、母が帰ってきたのだと玄関に走った。ドアを勢いよく開けたが、そこには母の姿はなく、代わりに暗闇の中から生ぬるい風に乗…

応募作42

「動物園」 貝原 天王寺にある動物園でカバを眺めていたら、一人の男が歩いてきた。 男の肩には大きなフクロウが乗っていた。つい先ほど見てきた鳥の展示エリアにいたような丸顔のフクロウではなく、逆三角形の顔に、黒と金が羽根に斑に混じった、雄々しい一…

応募作41

「粉もん」 長野あき 転勤した同僚の健一を訪ねて、大阪の難波で待ち合わせをした。「修二か。よく来たな。会うのは2年ぶりか?」 腹ばかり膨れ、目がぎょろぎょろと動く健一の姿に、私は内心動揺していた。「長旅で疲れたろ? 飯でも食いに行こう。いい店を…

応募作40

「おばはん」 剣先あおり 部屋でぼんやり佇んでいると、がちゃがちゃと音を立てながら扉が開いた。「あんた、また、こんなところでぼうっとして。何しとんねんな」 別に自分の部屋で何しようが、俺の勝手やろうが。「ほんまあんた見てたら、心配なるわ。この…

応募作39

「わたしたちを知らない」 青山藍明 おへやはとてもきれいになって、いまはしらないお兄さんと、お姉さんがくらしている。ママのことも、わたしと弟のことも、知らないみたい。 お姉さんは、おなかに赤ちゃんがいる。はやく会いたいって、いつもおなかをなで…

応募作38

「譲ってください」 青山藍明 京セラドーム前で女が立っている。右手に画用紙を持ち、顔を半分隠しながら、横切る人々をじろじろ見ている。画用紙には「譲ってください」の文字が赤いマジックで書かれていた。ところどころ、文字が掠れていた。コンサートが…

応募作37

「澱みの下の白き身は」 玉川 数 雪置く髪に白肌の、衣も同じく染め色の無しに、巷に寒風も吹き荒べば、また凝る暑さの日にも柔和な笑みに顔をつくり、ひとのただ行きただ来るを見守り、そこに在るを常とした。 あれは神無き月の中ごろのこと、久方ぶりと世…