第三回大阪てのひら怪談選考コメント①

「第三回大阪てのひら怪談」の投稿作に審査員が寄せたコメントです。

 


里真澄「どうしよう」
※タイトルまで「王将」と「どうしょう」を掛ける、このこだわりを見よ! たんなる冗談話ではなく、怪談としても首尾一貫している。イベントでの歌唱を切望。

 

泥田某「環状線
大阪弁怪談では、これが一番冴えていた。

 

鳥原和真「善行」
近松門左衛門的な世話物の世界。

 


伊止止「おっさん山」
※トドメの一撃。

 

極北のヤマダ「橋と顔」
※ありがちだが大阪弁が利いている。

 

最寄ゑキ「饗宴」
※ちょっと藤枝静男の『田紳有楽』を連想させる。筆名にヘンな記号を使ってはいけない。

 

玉川数「澱みの下の白き身は」
※おなじみの「ケンタッキー」ネタを文体芸で読ませる。


伊藤智恵理雄「結びの一番」
※バカバカしいが忘れがたいインパクトが。

 

湯菜岸時也「《はぶくの》駅の風景」
発想の転換の妙。大坂色が稀薄(たぶん)なのが惜しい。

 

理山貞二「柵」
※万博跡地に特有のトポスを彷彿せしめる。謎多き話。

 

たなかなつみ「囚われ人」
※この底深い「しがらみ」感は大坂的?

 

王軽人「ゆれるで」
阪神怪談実話として。

 

勝山海百合「柳と双鳥の皿」
※抑えた語り口が見事だが大坂色が……。

 

榛原正樹「牲」
※来たな、クダンネタ!

 

綾野祐介「マルビル」
※ナンセンス味。

 

大庭くだもの「看板に偽りあり」
※お上手なんだが大坂色が稀薄。

 

坂本光陽「紅葉の呼び声」
※正攻法の怪談実話テイスト。

 

「善行」鳥原和真
合法辻閻魔堂
喉仏に絡みついた髪の気味悪さ。さらにそこから奥行きがぐっと広がる感じがよい。


「太閤はん」中野笑理子
こちら側に戻ってくる時の情景がくっきりと目に浮かぶ。よくあるアイデアでも、文章の端正さや、見せ方でこのような素晴らしい作品になる。

 


「大阪のおっさん」岩里藁人
予想を越えたところまで年賀状が続くのが面白い。落とし所も見事。「風俗草紙」の秋吉巒の絵面で想像していた。

 

「河童の住める道頓堀に」御於紗馬(5点に入れたかったです)
記事のリアルな基調に、河童の生態が見事にはまっていて面白い。偽装の懸念ももっともらしい。


「みっちゃんのいたずら」たなかかなた
大阪テーマを逆手にとったシンプルなアイデアが効いている。

 

環状線」泥田某
語りの妙技。大量の死についての思弁から、数える行為を軸に滲み現れる周囲の光景の凄まじさ。

 

ライブカメラ」宝屋
カメラに向かって落ちてくる人間のイメージや、その大きさの落差がいい。人智の越えたことが、確かに起きていると感じさせられる。

 

「大阪七墓」剣先あやめ
先祖の日記の中で、刻々と状況が変わっていくのが面白い。

 

阿倍野王子町あたり」松岡永子
丁寧で繊細な描写の数々に、なんともいえず記憶を喚起される。

 


「URL」天野さん
裏URLの都市伝説としてのリアリティと、それを探す動機の結びつきがよい。

 


「ツッコミ待ち」久瀬たつや
あるあるネタから始まり、「そうなん?」で転じる小気味よさに笑ってしまった。

 


ドッペルゲンガー フロム 大阪?」小野 創
方言の違うドッペルゲンガーは新鮮。

「顔も服装もそっくりやん。こんなに似てる別人なんて怖くて認められへん」という台詞がいい。

 


「到彼岸」 赤い尻
たこ、蛸ときて、凧で広がるイメージが気持ちいい。

 

「海な大阪」ふじた ごうらこ
かつて海であったことを心地良い幻想性の中で実感させられる。子供たちがかわいい。

 

「恋人」高家あさひ
大阪土産のずれと、静かに示される語り手の居場所のずれがよい。

 

「ちょっとヤバいかも」GIMA
なにかが確実に起きる予感を残して終わるのがうまい。

 


「バス、来ぇへんで」船生蟹江
「バス、来ぇへんで」という言葉のおかしみと、声のする位置の気持ち悪さ。

 


「奇妙な実話2題」GIMA
記事形式が新鮮。

 

「遺りもの」紅侘助
人情喜劇王への想いが伝わる丁寧な語り口がよい。傘が開くイメージの鮮やかさ。結びも効いている。

 


「鶏団子鍋」籠 三蔵
香りと味しか仏様はいただけない、という言葉に結びつくラストがしみじみといい。

 

「澱みの下の白き身は」玉川 数
なんの話かと思う凝った文体から、あのお方だと判るときの落差が楽しい。

 

「動物園」貝原
文章が丹精で、見えないフクロウの重みが伝わってくる。

 


「呼ぶ声」文乃
わらった。確かに勝利への執念は怖い。

 


アンフォゲッタブル」坂本光陽
クッキー缶の中のとりあわせが絶妙でよい。

「早めに」君島慧是水槽をどこまでも巡っていく夢幻的な情景が美しい。

 


「お地蔵さん」ふじたま
湧いてくる手に体を引きちぎられる白昼夢感がいい。

 

「待ち合わせ」文乃
よくある泉の広場の待ち合わせものだが、一文で翻るように異界の存在になってしまうのがよい。

 

「大阪では何体か倒したらしいぞ」最寄ゑ≠
異形の戦闘シーンに迫力があり、情景が浮かぶ。タイトルは「宇宙戦争」の台詞ですね。

 


「血」中森臨時
標準語の純粋な大阪人や、しぼんでいく絵面が面白い。

 


アメリカ村インジャパン」白瀬青
お前達は千葉にしか住めないはずだ、に笑った。

 

「無題」白瀬青
幽霊の閉塞的な主観がとてもリアル。

 


「片想い」奈鳥香音(3点に入れたかったです)
想像される結末に向かっていくのだが、描写で読ませる。

 

「閉店セール」司條由伊夏
開店した時から閉店セールしてる状況が面白い。

 

「思い出焼き・キャリー」新熊 昇
お好み焼きが実においしそう。

 


「にわとり」七
最後の足跡が印象に残る。

 


「柳と双鳥の皿」勝山海百合
因果関係のずれが面白い。

 

「重要機密」剣先あおり
ヒョウ柄や飴が呪術的、というのはその通りだと思います。

 

「河内湾」万年青屋
水面下から眺める船のイメージがとてもいい。

 

「橋と顔」極北のヤマダ
戦禍を濃縮したように犇めく顔の数々が、脳裏に残る。

 

「そのケモノとあのケモノ」極北の山田
ケモノが自己認識をする冒頭と、その正体のおもしろさ。

 

「山道のパーカー」洞見多 琴歌
たたみかけるリズムがきもちよい。

 

「看板に偽りあり」大庭くだもの
「立て看板には〈のっぺらぼう〉とある。わたしは マレーグマを見たかったのだが。」がすばらしい。書き出し賞をあげたい。

 

「ふれあい動物園」高家あさひ
読者の思い込みを少しずつずらしていく展開がよい。

 

「サンドファンタジー」光原百合
懐かしい……砂時計の色にどきりとさせられた。

 

「陰膳」里 真澄
女将さんの自然な語りが実にいい。

 

「2017」阿由葉ゆあ
2017年を振り返ることができました。


「遊女塚」矢口 慧
つけ爪は本物の爪とは別の気持ち悪さがありますね。

 

「万年時計」多摩水雪春
まさに歯車。時計から聞こえる歯の音が耳に残る。

 


「ぅん……ない……ねん……」秋月優貴子
みなしんでん、の語感がよい。

 

「穴」鳴骸
事故の偶然を描く淡々とした筆致がよく、気味の悪さが静かに立ち上がる。

 

曽根崎心中」アオ
曾根崎心中に別の生々しさが見えてくる。

 

「道頓堀の清掃」築地つぐみ
死体が出てくるのかと思わせて、叫ぶ泡なのがいい。

 

「柵」理山貞二
子供の頃に体験した似たような状況がリアルに蘇ってきた。

 


「見上げる」国東
骨となったクジラに流れる静かな時間にぐっとくる。

 

「Y県某村居酒屋にて」田口六
語り口と内容の落差がよい。

 


「あめざいく」春南 灯
はばたく飴細工のイメージがすてきです。