応募作100

「おっさん山」

伊止止

 

「おっさん山」は、子供の頃近所にあった雑木林の小山だ。「おっさん」とは山の地主の爺さんのことで、無断で山に入って彼に見つかると、怒鳴られ長い説教を食らったものだ。
 夏のある日、虫捕りに「おっさん山」に入った友達が、大人の背丈程の、白いものが生えているのを見た。下へ行く程太く、先細り、まるで白い竹の子のようだったという。一人では怖くて近づけなかった彼に請われ、私は一緒にそれを確かめに行くことになった。
 しかし山のどこを探してもそんなものはなく、二人は気まずくなって山を出た。
 そこを爺さんに見つかってしまった。
 私はやけ気味に「白い竹の子」の話をした。
 すると爺さんは眉間の皺を緩め「見たんか? どこで?」と訊ねてきたのだ。
 友達はおどおどと答え「でもなくなってた」と小さい声で付け加えた。
「ありゃすぐ消えるからな。もう出んと思ってたが」感心するように爺さんは言った。
 本当にあるの?と私が思わず言うと「昔はよくあった。俺は三べん見た」と答え、「生っ白くて薄気味悪いもんだ。二日も残らんし何かは解らん。そんで、アレのあったとこには必ず何か埋まっとる。狸とか鹿とか、人とかな」懐かしむような口調で言うのだった。
「そういや、半腐りの頭を器用にのっけて伸びてたのもあったな」言いながら自分の頭を持ち上げるようなジェスチャをした。ついその光景を想像してしまい、気分が悪くなった。
「ちょうどアレみたいだった。ほら、アレ……なんつったっけ? 白いの。えーっと」
 嫌なことに、私は爺さんが何を言いたいかわかってしまった。
「……太陽の塔?」
 私が言うと「それそれ!」と手を叩いた。
「全くアレそっくりだった! はははは!」
 爺さんはしばらく笑い転げていた。もちろん私たちは全く笑えなかった。
 あの塔を見ると、今もそのことを思い出す。