第二回「大阪てのひら怪談」佳作受賞作品

作品タイトル:うにたま丼 
筆名:剣先あおり

 繊維の街、船場センタービル付近は昼ともなると飲食店の激戦区となる。周りに商社や金融機関がひしめく一大ビジネス街でもあり、胃袋の数も半端ではない。中でも王道は大阪らしく安い値段で美味い飯を出す店だ。
「おう、久しぶり」
 怪談会の常連で、顔馴染みの中ぼんがこの街で働いていることを知ったのはつい最近のことだ。夜は怪談ジャンキーだが、昼は本人曰くバリバリの商社マンらしい。
「お久です~。ていうか、昨日もここで会いましたやん」
 中ぼんも昼になるとこの店に来ている。なんといっても名物「うにたま丼」が三百五十円なのだ。今時ワンコインでも貴重なのに、お釣りも来るのは有難い。
 おばちゃんに「うにたま丼大盛」を頼むと、一分も待たずにそれは出てきた。見た目は半熟の玉子丼だが、橙色がかった濃厚な黄身はウニのコクと甘さを感じさせ、ご飯とよく絡まって美味いのだ。好みで山葵を乗せるとこれがまたツンときて、堪らない。妙に精もつき、疲れも取れる。値段、早さ、美味さ。どれをとっても満点なのに常連ばかりで知る人ぞ知る店なのが不思議だった。
「ほんまうまいな。でも何の玉子やろ」
 僕知ってまっせ、と中ぼんがいう。
「おばちゃんに見せてもらいましたんや。店の奥に飼育場みたいなんがおましてな、そこに毛の生えた牛ほどでっかいナメクジみたいなん飼うてて、そいつがぽこぽこ玉子産みよるんです。それ食わされとんですわ。エサは客の残飯でええそうです。安上がりですな」
「そんなん、早よ言えよ。わし、知らんとめっちゃ食っとるやんけ」
「どうせ普段から何食わされてるか分かりませんやん。せやったら、安いほうがよろし」
「せやな。今のところ何もないしな」
 俺と中ぼんが同時に丼を平らげると、おばちゃんが満面の笑みで俺らを見つめていた。