応募作96

「振り返ってはいけない」 夏目あみ 「難破橋の幽霊が出るって話知ってるか?」彼女もいない仕事もできない貯金もない男の二人で スマホをいじりながら生ビールを飲んでいた「知らないです」「戦時中に難破した船があったそうで出るらしいよ」「え・・・なに…

応募作95

「ナイトウォーカー」 れふにゅ 今年の三月頃、夫から聞いた話。「昨夜も今夜も、同じ人を見かけたんだ。女の人。昨夜は幼稚園の前で、今夜は車の工場前で。ご近所さんかなって思ったんだけど、全然知らない人だった。さっきすれ違ったときに目があっちゃっ…

応募作94

「にわとり」 七 仲良くしていた先輩がいなくなった――。 寛子から相談を受けた伽歩は、とりあえず会って話を聞くことにした。「部屋にあったんは、これだけ。天神さんの古本まつりに行くって言うてたから、多分そこで買うたんやと思うけど」 鶏の表紙イラス…

応募作93

「Diversity」 伊止止 何度目のかの来阪か。私は道頓堀を訪れた。 聞こえてくるのは大阪弁よりも、観光客の土地の方言、そして外国語の方が多い。 よそ者だらけの中を、やはりよそ者の私はふらふら歩く。ユニークな看板やオブジェに囲まれて<私はどこにいる…

応募作92

「思い出焼き・キャリー」 新熊 昇 ぼくは屋台であまりものを食べたことがない。そもそもあまり外へ出かけないし、出かける時は軽四だし……。たまたま大阪の街を歩いていて、キャベツとソースの焦げる匂いを漂わせているお好み焼きキャリーを見かけて、思わず…

応募作91

「閉店セール」 司條由伊夏 いつでも閉店セールという店が、大阪にはある。「もうあかん、閉めます」と言いながら何年も何年も閉店セールを続け、「いつ閉めんの」と聞けば、「夜には閉めとる」と返されるような店が。だから本当に閉店してしまったのには驚…

応募作90

「追憶からの来訪者」 湯菜岸 時也 土曜日の晩、十三のラウンジで子供の頃、こんなTVドラマがあったのを思い出した。 殺人事件に巻き込まれ記憶喪失になった主人公の青年が、唯一、覚えているオレンジの帽子を被った女を探して彷徨うのだが、その行く先々…

応募作89

「新千里ムーンラプソディ」 湯菜岸 時也 やわらかな日差しを浴びた空気を散らし、肌に刺す冷気を含んだ疾風が路地から吹きあげて街路樹を震わせる。遠雷が聞こえた。 と、思ったら、救急車のサイレンの音が団地内に轟いた。今年は老人の急病が多い。 友人は…

応募作88

「《はぶくの》駅の風景」 湯菜岸 時也 近鉄の羽曳野駅だと思って電車を下りたら、駅名は《はぶくの》で、駅員のいない無人駅だ。思わず舌打ちが出てしまう。 妙な駅舎で、プラットホームにドーム状のコンクリートの屋根と壁が被さった構造になっており、ま…

応募作87

「池に映る」 久遠了 春には見事な桜で賑わう「いわたちばな公園」は、閑静な住宅街にあった。遊歩道に囲まれた大きな池があり、場所に不似いな「地獄池」の名で呼ばれていた。「古来から地獄と呼ばれる土地は、温泉や炭酸を含む水が湧いていることが多かっ…

応募作86

「難波恐怖体験」 前 順平 それはハロウィンの日に起きた出来事だった。 ひっかけ橋で私は声をかけられて、ほいほいとついていったのが間違いだった。私は魔女のコスプレを、隣に寝ている彼は、ねずみ男のコスプレをしていて、私たちは今夜出会ってワンナイ…

応募作85

「心霊スポットの噂」 宝屋 関西では会話の語尾に「知らんけど」とつける。これはほかの地域の人からしたら先ほどの話の真偽が混乱してしまうようでとても嫌われていた。 大阪の繁華街に割と有名な心霊スポットがある。しかしながら、「友達の誰某の知り合い…

応募作84

「貴腐銀杏」 榛原 正樹 十月の台風が過ぎ去った日の翌日、私は彼氏と大阪城の西ノ丸庭園を散策していた。「おまえさ、『貴腐銀杏』って知ってるか?」 彼が出し抜けに聞いてきた。「何それ? 貴腐葡萄やったら知ってるけど」 私は、一度だけ飲んだことがあ…

応募作83

「大阪凝視」 ふじたごうらこ 本場のたこ焼きを食べたくて高速バスで六時間かけて大阪難波に行った。降車するとすで夕暮れだ。御堂筋を歩いていたら、後ろから来たバイクにバッグを持っていかれた。あのバッグの中に一泊分のホステル代とたこ焼き代が入って…

応募作82

「擬宝珠(ぎぼし)」 榛原 正樹 「なぁ、大阪城の京橋側の内堀に、極楽橋ってのが架かっとるの知っとるか?」「もちろん知っとるよ。観光客が必ず記念写真撮るところやんか」「あの橋に擬宝珠がいくつも付いとるやろ」「はぁ? ギボシってなんや?」「橋の…

応募作81

「シャッター付貸ガレージ」 赤い尻 大阪南部には長屋式のシャッター付貸ガレージが多い。外壁はコンクリや波板トタンでいずれも重い灰色、やはり灰色のシャッター扉がずらりと並ぶ、細長いバラックだ。全体的に錆っぽく、古い工場のようにも見える。片流れ…

応募作80

「和泉の歓声」 安童まさとし 私は、大阪の和泉にあるアパートの二階に住んでいます。アパートのベランダから見下ろすと駐車場が広がっており、その向かいには公園があります。公園ではいつも、近所の子供達が楽しそうにはしゃいでいます。ある日のこと。 子…

応募作79

「堂地下にある寿司屋」 石動さや加 堂島地下センターの端に、その寿司屋はありました。寿司屋の割にお品書きは「そば」「うどん」のみ。店全体がバーよりも暗くて、一応カウンターにケースは置かれているものの何が入っているのか分かりません。その向こう…

応募作78

「片想い」 奈鳥香音 僕は、四條畷の倉庫会社で働く同僚の森下深雪に一目惚れした。深雪は透けるような色白美人で、同僚の男性社員のアプローチを次々かわし、誰とも付きあっている様子は無かった。とうとう社内には、男嫌いという噂が広まって、近づく男性…

応募作77

「てっちゃん」 鳥原和真 てっちゃん。てっちゃんって呼んで。 出張先での風俗通いが唯一の楽しみで、煌めくネオンの群れへふらりと足が向いてしまう。その女の子は前歯の大きい丸顔でお世辞にも美人でないけれど、人懐っこい仕草で妙な愛嬌があった。婆さん…

応募作76

「大阪七墓」 剣先あやめ 祖先が記したと伝わる江戸時代に書かれた日記らしき書物を、夏休みの課題として読み解くことにした。くずし字辞典を片手に四苦八苦した結果、これを記したのは私とそう年齢の変わらない男性らしいということが分かり、親近感がわく…

応募作75

「小路の神社」 剣先あやめ 久しぶりに学生時代のメンツが3人そろったので、夜の難波へくりだす。1軒2軒とハシゴするうちに酔いも回り、気がつけば浮世小路という、並んで歩けないほど狭い場所にたどり着いた。「最近、こういう昭和っぽい造りの場所、増えす…

応募作74

「ライブカメラ」 宝屋 気象情報サイトで自宅周辺地域の天気予報を見ていると、近隣市のライブカメラがあることに気づいた。そこは大阪の郊外で遠景に山が見える以前の勤め先の懐かしく慣れ親しんだ風景だった。 ライブカメラの映像は30分の定点観測映像を1…

応募作73

「奇妙な夜に」 里上侑作 なんかこの部屋変じゃないと妻が言った。夜中に何か大きな音やゴソコソする音や笑い声が頻繁にすると私に言ってきました。大阪に引っ越しをしてきてまだ二週間しか経っていません。上下六部屋のアパート。私達の部屋は上の階の真ん…

応募作72

「栖」 里上侑作 大阪の都市部から少し離れた田舎町。 二台分の庭に雀や鳩、椋鳥が一本の太い木に咲く花や果実を求めてやってきます。この家の一人暮らしのお婆さんは鳥がやってくるのが嫌で嫌でしょうがなかったのです。まわりの近所の方々は「鳥の鳴き声が…

応募作71

「カクテル」 里上侑作 大阪の営業の出張帰り、東京行きの新幹線の乗る時刻まで時間があった。 時間潰しに駅近くの小さなバーに入った。薄暗いオレンジ色の照明、カウンター席が五席、サックスのジャズ曲が流れ、店内は落ち着きがあった。右の奥の席に一人の…

応募作70

「ゆれるで」 王 軽人 その日の朝は誰かに起こされたんだと思う。目が覚め窓の外を見てもまだ暗い。時計は五時四十五分を指している。七時まで一時間以上まだ寝れると思い、布団に包まり寝返りを打った瞬間だ。 「ゆれるで!」 母の声だった。部屋中に響く母…

応募作69

「出張」 王 軽人 海外出張を言い渡された同僚に嫌味を言った。 「ええなぁ、どこ行くんや。土産忘れるなよ」 「あ、うぅん…」 「なんや、嫌なんか!代わったろか?」 「出張がじゃないんよ。途中が嫌なんよ」 「え、何がやねん」 「特急『はるか』やねん」 …

応募作68

「無題」 白瀬青 あかんぼうが鳴き止まん。 幽霊やから気温は感じんけど、部屋の気温計は一番上まで振り切れとるし。 視界の端に黒い影が流れていく。耳にずっと、羽音がある。そりゃあわたしは幽霊や。噛まれも触れもせんのはわかっとるけど、そんでもやっ…

応募作67

「アメリカ村インジャパン」 白瀬青 「そりゃあ俺だって水辺は避けてたさ。アトラクションがみんな本物に戻ってるって聞いたとき、鮫はやべェって真っ先に判ったからな。でもよ、まさか空から降ってくるなんて思うかよ。吊るしてあるモニュメントがいきなり…