応募作3

「DTB48」
司條 由伊夏
 気づくと劇場の前に立っていた。ここはどこだろう。かすかに川の流れる音が聴こえる。入り口には
「DTB48劇場」の文字。NMB48じゃなくって? DTBって……道頓堀? そんなグループが新しくできたのか。引き込まれるように入ってみる。
 受付で男がチケットを売っていた。「600円です」……意外と安い。金を払うと男は「上着をお預かりしましょう」と言う。コートを脱いで手渡すと、男はうやうやしい身振りで受け取り、「では中へどうぞ」と奥の扉を指し示した。
 重い扉を押し開けると、会場の熱気が押し寄せた。キラキラのライト、ノリノリの音楽、華やいだ歓声。そこにあるのはアイドルのライブそのままの光景だったのだが。ステージの上を見て、凍りついてしまった。
 フリルとリボンがついた可愛らしい衣装を身にまとい、キレッキレのダンスを繰り広げるアイドル。しかし彼女たちは……老婆だった。しわしわの老婆が48人、白髪を振り乱し、裏声で歌いながら踊り狂っている。
 この世のものとは思えない光景に立ち尽くしていると、受付の男が入ってきて、「どうぞもっと前のほうへ」と声をかけた。「これは……ここはどこです」必死で声を押し出すと、「三途の川ですよ」「え、川って……道頓堀じゃなくて?」「お気づきでなかったのですね。皆さんにはこれからあちらへ渡って頂
くのですが。近頃個人情報保護や何やで手続きが煩雑になって、待ち時間がずいぶん長くなっちゃってねえ。皆さんの退屈を紛らわすために、奪衣婆さんたちがショーをしてくれるのですよ。どうぞお楽しみください」
 奪衣婆……DATSUEBA……DTB。呆然と見つめていると、センターで踊っている老婆がつけまつげたっぷりの目でウインクした。それがとても可愛くて、気づくと他の観客と同じように、歓声をあげながら踊っていた。