応募作6

「マスコットたち。」
水無川 燐
 もずさん法師は考える。愛されなかったマスコットたちの行くべき場所を。
 ぴこにゃんやうまモンはおろか、えんとくんにもなれなかった大阪のマスコットたち。
 つべさん。あべもん。たきのみちゆづる。
 名前を聞いても、ほとんどの府民が姿かたちをイメージできないのが現実だ。
 最近ではそんな不人気マスコットたちが怨霊化して、府内各地で人を襲っているという。
 そこでマスコット退治を命じられたのが、もずさん法師だった。大阪府のマスコット「もずさん」は、決して愛されないキャラクターではなかったが、さりとて行政の後援無しに独り立ちできるほどの人気は無い。任務を引き受けなければ、解雇は免れなかっただろう。
 もずさん法師は愛用の金剛杖を振り上げる。
 対峙しているのは、阪南市の「ぱなてぃ」だ。ゆるキャラとして誕生した当初に寄せられていた期待は、とっくに消沈してしまい、その後、入り手のいなくなった着ぐるみに、ジジイの市役所職員が無理に入ろうとして引き裂けたときの恨みで怨霊化したものらしい。
 法師が放つ金剛杖の一突きを、ぱなてぃはあっさりと躱す。
「予想以上に素早い。らちがあきませんね」
 法師の相棒、犬のダッピーがこぼす。
「だが、そろそろ終わりだ」
 法師の言葉と共に、近くの小学校で放課後を告げるチャイムが鳴る。
 たちまち校舎から大勢の子供たちが飛び出してきた。退屈な授業時間から解放された子供たちが見たのは、怪物同士の熾烈な戦闘だった。
 子供たちの高い歓声に、一瞬気をとられたぱなてぃを、もずさん法師の金剛杖が貫いた。
 ゆるキャラとしてではなく、怪物としてだったけれど、確かに愛された記憶と共に、ぱなてぃの怨霊は成仏していく。
「あんたも一緒に天に召されるのかと思ってましたよ」
 ダッピーの言葉に、まだ仕事が残ってるわい、と法師は言い返す。
 そう、仕事も居場所もまだ残っている。それがたとえ、かつて望まれたかたちと、全く違っていたとしても。