応募作5

大国主神社で長いお別れ」
水無川 燐
 幼いころから行きつけだった、大国町駅近くの神社。
 私はいつもお祈りするのだ。
 家族のため。それから自分自身のために。
 こうしていると、ときどき叔父が話しかけてきてくれるから。
 ほら、今日も肩を叩いてくれた。振り返ればいつも通り、大黒様のようにでっぷりと太った叔父がいた。
 私は叔父に、家族の近況を伝える。変わり映えしなくて、自分でもつまらない話だと思ったけれど、叔父はげらげら笑ってくれた。
 豪快に笑う叔父は、テレビで見るステレオタイプの大阪人みたい。
 もっともステレオタイプなのは、叔父のみならず、私の家族もそうだった。ただしお互い、両極端な方向で。
 私の家族は、お金に細かいオオサカジン。私自身もきっとそう。
 お金のことだけじゃなく、世間体とか細々としたことを気にして、損をしたり、傷ついたりするかもしれないことには、何ひとつ踏み出せないのが私だった。
 一方で、破天荒な叔父は小さなことなど気にしない。
 そばで振り回されてきた人たちは本当に苦労したんだろう。そんな叔父が事業を成功させて財を築いたのを、内心面白く思わなかった父の気持ちは理解できる。
 叔父が隠していた大借金が発覚して、結局相続放棄を決めたときに吐き出した汚い言葉も、仕方がなかったのだと思う。
 いつも明るい叔父が追い詰められていたことに、気づけなかったのは、私だってそうなのだ。
 話のタネが尽きたあたりで、私は叔父の皺だらけで冷たく乾いた手を握る。
「私、大阪を出るんだよ」
 もちろん親は反対した。だけど、こっちだって生まれて初めての反抗だ。引き下がるつもりはなかった。誰に似たんやろうなとこぼしながら、最後に父は納得してくれた。
 叔父のようには生きられないけど、せめて叔父への弔いに、私は敷かれた道を少しずつ外れて生きていく。自由を教えてくれた叔父に、私はわずかばかりのお別れを告げた。