2017-09-13から1日間の記事一覧

応募作10

「和泉ナンバー」赤い尻 運転席の窓を叩くのは警察官だ。深夜のコンビニ駐車場で車中にじっとしているのを見咎められたのだ。快く職務質問に応じる。「妻と喧嘩をして咄嗟に家を出て、ここで頭を冷やしていたんです。免許証。は、今持っていません。着の身着…

応募作9

「愛すべき幕末史跡『適塾』」地草研江戸末期の蘭学者・医者の緒方洪庵が船場に開いた「適塾」。維新の人材を輩出し、阪大医学部をはじめ福沢諭吉もここで学び慶応義塾の源流ともいわれています。手塚良仙(手塚治の曽祖父)も門下生で漫画「陽だまりの樹」…

応募作8

「恋人」高家あさひ しばらくのあいだ、私にとって大阪土産といえば、ホワイトチョコレートをクッキーではさんだラングドシャだった。 それは北海道の土産だろう、と言われるかもしれないけれど、大阪に住んでいるひとが、来るたびに買ってきてくれたのだ。…

応募作7

「海な大阪」ふじた ごうらこ……ここは大阪の真ん中やけどな、昔は海の中やったんやでえ、こんな感じやったろうなあ…… みいちゃんは魚の絵本を開いたまま、うとうとしていた。横にいたおばあちゃんが、絵本を覗き込んでいる。まわりは海どころか山もない、マ…

応募作6

「マスコットたち。」水無川 燐 もずさん法師は考える。愛されなかったマスコットたちの行くべき場所を。 ぴこにゃんやうまモンはおろか、えんとくんにもなれなかった大阪のマスコットたち。 つべさん。あべもん。たきのみちゆづる。 名前を聞いても、ほとん…

応募作5

「大国主神社で長いお別れ」水無川 燐 幼いころから行きつけだった、大国町駅近くの神社。 私はいつもお祈りするのだ。 家族のため。それから自分自身のために。 こうしていると、ときどき叔父が話しかけてきてくれるから。 ほら、今日も肩を叩いてくれた。…

応募作4

この世は生きるに値しない」水無川 燐 この世は生きるに値しない。 こちらを覗き込んでくる顔を見るたびにそう思う。 とはいえ、こういう人がいないと僕の方も困るわけです。 訪ねてきたのは、青白い顔をした女性でした。なんだか気の弱そうな人でしたが、い…

応募作3

「DTB48」司條 由伊夏 気づくと劇場の前に立っていた。ここはどこだろう。かすかに川の流れる音が聴こえる。入り口には「DTB48劇場」の文字。NMB48じゃなくって? DTBって……道頓堀? そんなグループが新しくできたのか。引き込まれるように入ってみる。 受付…

応募作2

﹁かす﹂紅侘助 何や︒シケた面して︒また博打に負けたんかいな︒尻の毛までむしられて鼻血も出ぇへんのんか。ほんまにクソやな自分。分かっとるはずや。博打で負けた銭が博打で取り返せるわけないやないか。何べん同じことしたら覚えられるんや。そんなやか…

応募作1

﹁到彼岸﹂赤い尻 なんばを出発すると電車は湾に沿って南下するが、臨海工業地帯の複雑怪奇なプラント群や首長竜を連想させる巨大な港湾設備に阻まれて、車窓から海を拝むことはできない。 悲願叶って授かった息子はようやく乗降扉の縦長なガラス窓に背が届…