応募作61

「お地蔵さん」

ふじたま

 路地のドンツキにお地蔵さんがある。
「めずらしいな。おっちゃんがお地蔵さんにお参りやなんて」
「儂かて、お参りしようと思うことぐらいあるわい。けど、うちの死んだ爺ちゃんは、お地蔵さんが恐うてしょうがないとずっと言うてたわ。なんでもお地蔵さんは閻魔大王の化身やちゅう説があってな。この姿で現世の行いを全部見てはって、お裁きしはるらしい」
「へぇ、そうなんですか」
「うちの爺ちゃんな、戦地でそら命令やったんやろけど、何の罪もない人をようけ殺して大阪へ戻ってきたみたいなんや。お地蔵さんの前では、全部お見通しで地獄へ落とされてしまう。恐ろしゅうてどもならんて。それがある日、いっしょにお参りに行てくれと頼まれたんや」
「どういうことですねん」
老い先短こうなって、お地蔵さんに救うてもらおうと思たんやろな。それでお参りについていくと、爺ちゃんは一心に拝み始めた。あんな真剣な爺ちゃん初めて見たな。けど、なんや爺ちゃんの周りがおかしいねん。なんやろうと見てたら、地面から手が何本も何本も湧いて出てくるんや。あのときは、声も出んかった。その地面から伸びた手が、爺ちゃんの身体をつかんでは引きちぎっていくんや。それをじっと見てた。そやけど、お参りが済んで爺ちゃんが振り向くと、もう地面に手なんかないし、どうもなさそうやった。帰りは黙ったままうちまで帰ったけど、実はその晩に爺ちゃんはぽっくり亡くなってしもた」
「えっ」
「それ以来、儂もお地蔵さんが恐うなってな、お参り嫌やったんや。子どもの頃は地蔵盆とかよう行ってたのにな。そやけど、儂もやっとお参りする決心がついた」
「また、どういう風の吹き回しで」
「誰にもいうたらあかんで。実はな……儂も若い頃にひどいことして人を殺めたことがあるんや。毎晩夢に出よる。ええかげん、苦しゅうてな。そやから、これから儂がお参りするのを、ちゃんと見ててくれ。恐いねん。頼んだで、ええな