応募作45

 「紅葉の呼び声」

坂本光陽

 高校生男子は総じてバカである。僕も例外ではない。
 きっかけは新聞記事だった。当時、暴力団の抗争が相次いでいた。記事によると、大阪府警高槻市北部の山間で死体を捜索中だという。襲撃を受けた暴力団員が壮絶なリンチの末に殺害され、谷底へと投げ捨てられたらしい。
 御丁寧にも死体を捨てた場所まで、地図入りで紹介されていた。
 仲間の誰かが「行ってみようぜ」と言い出した。自転車で充分行ける場所である。『スタンド・バイ・ミー』よろしく、僕たちは出発した。
 季節は秋だった。山々はきれいに色づいていたが、僕たちに愛でる余裕はない。山に入ると、長い坂道が延々と続いたからだ。仲間は次々と脱落していく。最後まで残ったのは、持久力に自信のある僕だけだった。
 先行しすぎたので、見晴らしのよい場所で自転車を停めて、後続を待つことにした。
 座り込んで休んでいると、「おーい」という声が聞こえた。ガードレールの向こう側、山の方から聞こえたから、後続の連中ではなさそうだ。
 何気なく山を眺めていると、紅く染まった斜面で何かが動いた気がした。右へ左へゆっくりと動いている。どうやら風船のようだが、暗くて濁った色をしていた。
「おーい」呼び声は風船の方からだ。
 僕は風船に目を凝らした。その正体に気づいて驚愕した。
 風船ではない。人間の生首だった。血まみれの生首が宙に浮かんで漂っていた。
「おーい」こちらに呼びかけている。
 僕はパニックを起こした。自転車にまたがると、必死にペダルをこぎ、猛スピードで坂道を下った。後続の仲間と合流するまで、よく事故を起こさなかったものである。
「あれは、殺された暴力団員の首だ。見つけてほしくて、僕に呼びかけてきたんだ」そう言い張ったが、戻ってみると生首は消えていた。
 仲間からバカにされ、僕も一緒に笑った。笑うしかない。笑わなければやっていられない。数十年たっても、思い出しただけで背筋が凍る。