第二回「大阪てのひら怪談」田辺青蛙賞受賞作品

作品タイトル:浮いているもの 
筆名:綾野祐介

 

今年は頻繁に豪雨に見舞われ、あちらこちらで河川は氾濫し大きな被害が出ていた。

 幸いなことに大阪の中心を流れる淀川は氾濫こそしなかったが上流である桂川が氾濫してしまった。その日の少し後のこと。私は普
段から一人で訪れている海遊館に居た。海岸からは観光船が出ている。別に乗るつもりもなかったのだが、その辺りを散策していた平日の昼間、人もそれほど居ない岸壁でサンタマリアや増水の所為で色々なものが打ち付けられているのを何となく眺めていた。
 ふと波間に何か浮き沈みしていることに気付いた。少し遠くてよく判らないので近づいて身を乗り出し確認してみた。やはり何かが浮き沈みしているようだ。しばらく、それが何だろうかと考えていると不意に脳裏にある答えが浮かんだ。そう思って見てみると最早それにしか見えない。「人間の頭部」だ。
 マネキンだと思おうとするが、どう見ても本物のようだ。私は警察に通報しなければ、と視線を外した。そうすると、今度はまた少
し離れたところにもっと大きなものが浮き沈みしているのが見えた。こっちは胴体だ。本格的に通報の必要が出てきたが周りを見回しても他には人がいない。私が判断しなければならない。そうだ、海遊館の係員か観光船の乗組員を探そうと思ったとき変なことに気付
いた。頭部が浮いていて少し離れて胴体が浮いている。しかし、よく見るとそれらが何か白いもので繋がっているように見える。
「何だ、あれは?」
 4mほどは離れて浮いている頭部と胴体は
確かに繋がっていた。頭部と胴体を繋ぐ白いもの、それは、、、、、長い長い首だった。