応募作139

「高速バスで大阪へ」

酒井焼売

 

 休憩室のテレビは、おじさんたちがいるときはニュースか野球と決まっているけど、若いお兄ちゃんたちだけになると、お笑いとかバラエティに変わる。飯島君の彼女は大阪の学校に行っているそうで、「大阪食べ歩き! 今注目のデートスポット」なんてのを熱心に見ている。大阪は賑やかで楽しそうなとこだなあ、と思いながら私も眺めている。
 近くのインターには高速バスの停留所があって、そこには大阪からのバスも来る。バスから降りた人が、テレビで見た大阪のお店の袋を持ってると、ちょっとうらやましい。
「ねぇタキさん、高速バスってどうやったら乗れるんですか」
 だるそうに首をもんでるタキさんに聞いたら、「どこ行く気よ」と笑われた。
「あのね、バスセンターに電話するの。どこ行きのバスに乗りたいって予約するのよ」
 電話で予約ぅ、とうなったらまた笑われた。
「それよりほら、また新しい人が来たわ」
 偉いおじさんの後ろから、おばちゃんが休憩室に入ってきた。大きなおしりでぼてんと座り込むと、一礼してなにかつぶやき始める。
「カベのシミにあいさつしてますね」
「今度も、仕事できない人みたいねぇ」
 でもこういう人も生きなきゃだろうし、と苦労人のタキさんは優しいことを言う。
 ひそひそしている私たちを無視して、おばちゃんはなんちゃらやで極楽浄土とつぶやいている。どうも極楽浄土は西の彼方にあるとか言っているようだ。西にある場所なら、私はお上品そうな極楽より大阪へ行きたい。大阪のほうが絶対に何倍も楽しそうだし。
 いつかきっと高速バスで大阪に行こう。電話で予約は、ちょっとどうすればいいのかわかんないけど、ま、なんとかなるだろう。
 さて、少しの間は窓やテレビに映り込まないように注意だ。おばちゃん感謝してよぉ、だめだ聞こえてないですね、とタキさんと縄の上から首をもみつつ、ちょっと笑った。