応募作60

「母の話」

たなかかなた

 とても霊感が強い母は、昔から色々なモノが視えたそうです。母が子供の頃、大阪の親戚に会いに行く時に、必ず通ったトンネルの話を、私にしてくれたことがあります。
車の運転は母のお父さん、つまり私の祖父の役割でした。祖父の運転は荒っぽいのですが、大きな事故を起こしたことがないと言うので、おそらく上手かったのだと思います。ですが、そんな祖父もそのトンネルを走るときは、慎重な運転をしていたそうです。霊感のない祖父でも何か感じるところがあったのでしょう。母がいつも、そこで何を視ていたのかわかりません。私にはとうとう教えてくれませんでした。
後日、そのトンネルで事故が起きたというニュースを見ました。三台の車が大破し、十五人の人が重軽傷を負ったが死者はいなかったと聞いて、不幸中の幸いやね、と母は大阪弁で言っていました。