応募作49
「純喫茶とあの子」
青山藍明
道頓堀でいちばん派手で、よそ行きが似合う、あのお店。
きらきらしたシャンデリアと、おおきなテーブル。
ショーケースのなか、きちんと並んですましている、食品サンプル。
純喫茶、マウンテンはあの子と私、それからみんながあこがれたお店。
お父さんが、おみやげに買ってきてくれるプリンは、特別なおやつ。
みんなといっしょで、あのプリンが好きだった、あの子はどこへいったんだろう。かくれんぼをした日から、もう何年たっただろう。あんな子知らない。みんな言うけど、私はぼんやりおぼえている。あの子がいたこと、遊んだこと、なんとなく、なんとなく。
プリン、プリン、マウンテンのプリン。ちょっとかたくて、あまくて、カラメルがほろ苦い、マウンテンのプリン。
マウンテンからの帰り道、私はいつも呼びかける。だれもいない空間に。かならず、ひとつだけなくなるプリンに。
ピッチリと、ビニールの蓋がしまっているのに、中身だけがいつも、きれいになくなっている。
ねえ、○○ちゃん。名前が思い出せないよ。
どこへ行ってしまったの?教えて、教えて。
からっぽになった容器から、バニラの甘さに混ざって、土と草のにおいがする