SUNABAギャラリー賞

作品タイトル:「ゲッシー」
筆名:山葵(わさび)
 

 大阪南部にあるG大学の敷地には、通称「G池」と呼ばれる池がある。
 自主映画の撮影やカップル誕生の場所として学内では人気のスポットであるが、そのG池は主がいるという。
 謎の巨大生物、「ゲッシー」である。
 このゲッシーには恐ろしい噂があるのだ。
「ゲッシーを見たものは進級ができず、絶対に卒業できない」
G大は卒業生よりも中退者が有名になるのだが、ゲッシーを見たものだけは中退後も大成せず夢を諦めることすらできなくなる。
G池は大阪湾とつながっているので、昼間は大阪湾で遊んでいるゲッシーと遭遇することはまずない。ただし夜はG池で休むため夜間の撮影時に遭遇してしまうことがあるのだ。
 それを回避するためには「撮影日時・代表者名・学生番号・撮影人数」を明記したG大指定原稿用紙と第二食堂のコロッケ3つを、G池のほとりにある小さな石の上にお供えするのである。G池に棲むGカッパがゲッシーと遭遇しないように力を貸してくれるのだそうだ。ちなみに第二食堂のコロッケはGカッパの好物である。
 信じなかった為にゲッシーを目撃し、絶対に落としてはならない単位を落とし続け退学する学生が数年おきにでてきている。大学側も実習時に必ず注意するよう、映像関係学科には指導しているとのことだ。
 ゲッシーの正体はG池に不法投棄された各種農薬の影響で巨大化したサンショウウオだとも言われているが、定かではない。

 当時G大に入学したばかりの私にこの話を聞かせてくれた先輩はその後卒業制作映画の撮影時にゲッシーを目撃してしまい、進級できずに大学を去った。四十七歳になった今でも全く売れない役者を続けながら、アルバイトで生計を立てているという。