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受賞作:大賞

作品タイトル「おおさかの壁」 
筆名:有爪

 大阪と聞くと、ある知人の話を思い出す。
 その知人の地元は関東なのだが、近所に「おおさか公園」と呼ばれる場所があるという。崖下にある、日当たりの悪い小さな公園で、崖側は土留めのためのコンクリート壁になっている。その壁の端に、赤黒いペンキか何かで、子供の背丈くらいの大きさの、大阪ならぬ「大坂」という文字が書かれているため、そう呼ばれているのだそうだ。
 なぜ「大坂」と書かれているのか、いつ頃からあるのか、少なくとも知人の周りでは誰も知らないらしかった。
 偶に誰かのいたずらで、「犬坂」とか「太坂」とかになったりするのだが、いつの間にか加筆部分だけが消されて元に戻っているのだという。そのため、「大坂」の字はどうやっても消せない――そんな噂があって、子供たち間では少し恐れられていたらしい。
 それが、知人が中学生の頃。彼と友達の間で「大坂」を消してやろう、となった。彼らは放課後三人で、洗剤やたわし、ヤスリまで持ち出して、「大坂退治」に取り掛かった。
 ところが本当に消すことができなかった。
 それでムキになった彼らは、ついには白ペンキで壁を塗り潰してしまった。
 それで一応、「大坂」は消えた。だがそうなって初めて三人は、「大坂」をなぞるように壁に字が彫り込まれていることに気がついた。白ペンキで浮き出されたその文字は、しかし「大坂」ではなかった。
 それは「人皮」と読めた。
 日暮れ時のせいもあり、中学生たちは何だか恐ろしくなって、道具を抱えて逃げ帰った。
 その後しばらくして白ペンキは消えたが、やはり「大坂」の字は復活した。知人は、それでさらにぞっとしたと言っていた。
 しかし他におかしなことはないし、今思えばあれもただのいたずら書きだったのだろうと、知人はつけ加えてはいたが。
 もちろん「大坂」は、今もあるとのことだ。