応募作156

「花博の年」 海音寺ジョー ここの公園は、花博の時整備されて出来た。かれこれ27年前のことだ。ぼくが良く覚えているのは、この年に大阪の大学に入学が決まって、電車で大阪駅を通るたびに新聞の号外チラシをフリーラックから貰ってって、カラフルな花の写…

応募作155

「イルカとシャチ」 アオ 私が生まれたのは堺でも南の方にある泉北ニュータウンだ。高度経済成長期に山を切り拓いて作られ、家からほど近い泉ヶ丘駅というのは図書館や児童館、プールが併設されていた。まだ七歳の時に府外から従姉弟らが泊りがけで遊びに来…

応募作154

「大阪のおっさん」 岩里藁人 父親の遺品整理をしていたら奇妙なものが出てきたから見に来い――そんな連絡をよこしたのは大学同窓の棚橋だ。今年二月に亡くなった父の跡を継いで、古書店の三代目におさまっている。埃っぽい店内に入ると、テレビをつけっ放し…

応募作153

「ぅん……ない……ねん……」 秋月優貴子 <み>どうすじの ぎんなん でんしょく からだに まきつけられて すいみん ぶそくで みな しんでん <な>んばの げいにん ほんまに うれへん くってけへんて じぶんで わろうて みな しんでん <し>んさいばしの ばくだ…

応募作152

「千鶴ちゃんの居場所」 潮闇 ユキ 千鶴ちゃんは五歳下の幼馴染で、私のことを「おねいちゃん」と慕ってくれていた。 彼女は小学生の頃より難病を発症し苦しんでいた。 いつも呼吸は荒く皮膚は爛れている。幼い頃の笑顔はそのままだったが、見てくれは散々だ…

応募作151

「万年時計」 多摩水雪春 明治の終わり頃、西国街道沿いにあったという時計店の話。 店には時計職人の主人と妻、幼い息子の三人が暮らしていた。だが息子は五歳で悪い病気にかかり死んでしまった。子を失った妻は嘆き悲しみ、亡骸を埋める事を許さなかった。…

応募作150

「ツッコミ待ち」 久瀬たつや 俺、大阪の人って苦手なんですよ。 あの人たち救急車通るとすぐ「アンタ迎えに来たんちゃうか」って言うでしょ。 俺あれがすっごい嫌で。だって失礼だと思いません?縁起でもないじゃないですか。 うちのお客さんにも一人いるん…

応募作149

「祖母の言葉」 剣先あやめ 「あんな汚い言葉、あんたはよう使ったらあかんよ」大阪は船場で生まれ育った祖母は、テレビの中で漫才師やタレントが関西弁をしゃべる度に、顔をしかめた。祖母のしゃべり言葉は、「びろうどの布の上に玉をすべらせるような」と…

応募作148

「名月峠」 薄野ジロウ 晩秋の夜、美咲と能勢を抜けた山中まで紅葉ドライブにいった帰りの夜のこと。美咲は、優しく、どこか儚げな表情を見せる女の子で、僕は美紗を愛している。時計は九時を回り、クルマはやがて名月峠に差し掛かった。そこで、こんな話を…

応募作147

「命日」 竹内宇瑠栖 大阪北部でタクシーの運転手をするAさんが、まだ十三が今よりもっとにぎわっていた時代の体験だと話してくれた。 町に木枯らしが吹き始める時分、夜中の一時半を過ぎ、十三での客待ちをしていた。さすがに今日はもう客を乗せるのは難し…

応募作146

「黒い」 矢口 慧 面白いものを見せてやろうか。 大学の先輩に誘われて、彼のワンルームを訪問した。 六畳一間のフローリングに簡易キッチン、ベッドと、低いテーブル、その上にノートパソコン。貧乏学生の判で押したような家具と不釣り合いに、様々な機種の…

応募作145

「にゅるん」 矢口 慧 地下鉄は苦手だ。 たまに大阪に出ると、頼らざるを得ない交通機関だが、路線図を確認しても、正しい車両に乗っているか、全く自信がない。 景色を頼りに現在地を確認することも出来ず、自分が何処に向かっているか、運ばれているか解ら…

応募作144

「入試」 杉本達治 大阪に住むYさんから聞いた話。 Yさんは1月の寒い朝、旦那と祖父母の四人で一階の居間でテレビを見ていた。すると二階から一人娘の絶叫する声が聞えた。Yさんは慌てて娘の部屋に行くと携帯電話を握りしめた娘に「どうして起こしてくれ…

応募作143

「遊女塚」 矢口 慧 尼崎には、遊女を祀った塚がある。 後生の幸福を仏に求めて入水した五人の遊女弔って建てられた史跡だが、最近、願いが叶うスポットとして密かに人気があるらしい。 それを聞いたのは県外の友人からで、地元民の知らないところで色々な話…

応募作142

「ドッグヨガ」 阿由葉ゆあ 桜の散り終わった季節、ユイが大阪のとある公園を通り掛かると、ドッグヨガをやっている数人のグループがいた。 ドッグヨガというのは、犬と飼い主とが一緒にするヨガだ。 ユイも去年まで白いチワワを飼っていた。ヨガ教室に通っ…

応募作141

「2017」 阿由葉ゆあ その日、私は夫と一歳の娘と家族三人で、大阪の有名な観光地に行っていた。最近、人気のインスタ映えスポットだ。「こんにちはぁ。可愛い赤ちゃんですねぇ」 中年の女の人に声を掛けられた。「ありがとうございます。でも、ワンオペ育児…

応募作140

「ホラー作家にインタビュー」 阿由葉ゆあ え? 私がホラー作家だから、実体験で心霊現象を沢山、経験してるでしょ? って? やだなー、作品はあくまで創作であって、私自身は霊感なんてないから、殆ど、心霊体験なんてないですよー。 ええ? その数少ない心…

応募作139

「高速バスで大阪へ」 酒井焼売 休憩室のテレビは、おじさんたちがいるときはニュースか野球と決まっているけど、若いお兄ちゃんたちだけになると、お笑いとかバラエティに変わる。飯島君の彼女は大阪の学校に行っているそうで、「大阪食べ歩き! 今注目のデ…

応募作138

「どうしよう」 里真澄 どこにもあるよな怪談話 書いたワナビを笑わば笑え 浪花がテーマの八百文字 月も知ってる俺らの意気地 あの手この手の思案を胸に 安アパートで今年も書いた 彼女もいない女房もいない 棚に並んだ怪談本 いつかは本を出すんだからな な…

応募作137

「怪談師見習い」 里真澄 孝一さんが私を初めて怪談会へ連れて来てくれはったのは、腐女子仲間とのオフ会の帰りやった。 怖がる私を、「今日の会は参加型やから。自分のあの話、みんなに聞かせてやってや。絶対喜ぶで」 ゆうて、長い事説得してくれはりまし…

応募作136

「陰膳」 里 真澄 この居酒屋『あさきち』も、もうじき五年目に突入や。女ひとりで、いろいろ大変やったけど、がんばってやってきてよかったわ。こうやって翔ちゃんが探して訪ねてきてくれたんやもんな。ほんま、ありがとう。みんな、元気にしてる? よろし…

応募作135

「サンドファンタジー」 光原百合 何年か前まで、ちょうどこの辺におっきな砂時計があったん、知ってる? 淡いピンクの砂が詰まってて、下まで落ちきるのに一時間かかってた。一時間たったら機械仕掛けでゆっくり回転して、また始めから。高さが五メートルも…

応募作134

「囚われ人」 たなかなつみ 隣のアパートに住んでいた小父さんは、休日には朝から酒を飲む習慣があった。店でいちばん安いカップ酒を買って、道端に座ってちびりちびり飲む。縁石に腰をかけ、車道側に脚を投げ出し、警官に咎められては反論していた。曰く、…

応募作133

「小さなスナック」 胡乱舎猫支店 あの娘が出て行く前の晩、呑んだんや。マスターが気ぃきかせてくれてこの奥でな。 「ほんま行くん?」 「ん、もう決めてん」 「なんでなん?……あんなぁ、そんなん誰も気にせぇへんて、なぁ」 「気にするわ、あたしが」 手袋…

応募作132

「ザ・フライング・ダイナソー」綾野祐介 大阪市此花区にあるUSJは今や押しも押されぬテーマパークの雄だ。 最近では、プテラノドンに背中を掴まれたような態勢で空を駆け巡る「ザ・フライング・ダイナソー」が人気になって長蛇の列ができている。 私は絶…

応募作131

「VR」綾野祐介 大阪市此花区にあるUSJは今や押しも押されぬテーマパークの雄だ。 最近では、一時期スぺ-スファンタジーとして使用していた室内型ジェットコースターをVRと組み合わせて様々なアトラクションに仕上げて好評を博している。 VRとはヴ…

応募作130

「マルビル」綾野祐介 大阪に出張した時のこと。いつも定宿にしているホテルに部屋を取った。9時にチェックインし風呂にお湯を張る時間でメールに返信を終えて少し気を抜いた時のことだった。窓際の小さなテーブルに足を上げて椅子に深く座った私の目の端に…

応募作129

「譲渡」 羽田伊織 海遊館に近い街は海風が強く、十一月の終わりは酷く寒かった。ビュウと吹き抜ける一陣の風に窓ガラスは不吉な音を立てる。「もうちょっと待ってくれ」 手元の作品をルーペで確認する。半球体の目の覚めるような透明なレジンの中に、赤い金…

応募作128

「丑の刻参り」 洞見多 琴歌 会社の先輩から聞いた。 お得意先の接待帰りの夜だった。堺筋にある懐石料理のお店を出て、お客様をお見送りしてから帰途についた。まだ終電には時間があったので、酔い覚ましに北浜駅まで歩くことにしたという。 昼間は人気があ…

応募作127

「百円玉」 大庭くだもの おもわず拾ってしまったものの、すぐさま捨てるべきだと悔やんだ。百円玉だ。手垢で黒ずんで傷だらけなのに今年発行されたばかりらしい。どのように人手をわたってきたのか想像するのも厭な禍禍しさがあった。おれの体温が硬貨につ…