応募作161

「人面魚」

たいやき

 

私は祖父の法要で一心寺に来ている。   
祖父の遺骨はこの寺に祀られている仏像の中にいる。
火葬された灰を固めて仏像にして祀られていて親も死ねばここに納めて欲しいといつも言っている。
寺には池があってその中には沢山の鯉が泳いでいる。私はその鯉を見るのが好きだった。
法要の時にはいつも、池を覗いては鯉を眺めていた。
今日もいつものように池を覗くと見慣れない鯉がいた。
金色の鯉で体中に黒い斑点のような模様がついている。
初めて見る鯉で似たような模様をしている鯉が他にも14匹いた。
その内一匹の鯉が池から顔を出した。
エサでも欲しいのかな、と鯉を眺めると模様黒いだけの斑点ではなかった。
斑点は一つ一つが人の顔のように見える。
それぞれが違う表情の模様をしていてその中に祖父の顔にそっくりな模様があった。
沢山の模様に囲まれて嫌そうな顔をして私を見ている。人の波に揉まれて窮屈そうな表情だ。
そう言えば祖父は人混みが嫌いだった。
沢山の人と一緒に固められて祖父は嫌だったのだろうか。
それを伝えたかったのかは分からないが、祖父の顔に似た模様と目があったと思うと鯉は池の奥に泳いでいってしまった。
斑点の鯉達はは鯉の群れに紛れいつの間にか見えなくなりいくら探しても見つからなかった。幻でも見たのだろうか。しかし祖父のあの窮屈そうな顔が頭の中にこびりついている。
私も人混みは嫌いだ。死んでから見知らぬ無数の人達と一緒になると思うとゾっとする。
寂しがり屋ならば嬉しいかもしれないが。
私が埋葬された時は普通の墓にいれてもらおうと思った