応募作154

「大阪のおっさん」

岩里藁人

 

 父親の遺品整理をしていたら奇妙なものが出てきたから見に来い――そんな連絡をよこしたのは大学同窓の棚橋だ。今年二月に亡くなった父の跡を継いで、古書店の三代目におさまっている。埃っぽい店内に入ると、テレビをつけっ放しにして本の値付けをしていた。こちらの顔をチラリと見るなり、ドサリと紙の束を放ってよこす。なにやら絵が描いてあると思ったら、骸骨である。ガイコツ一家が炬燵で鍋をつついている。裏返してみて、あきれた。「年賀状じゃないか」
 パラパラとめくると骸骨、骸骨、骸骨のオンパレードだ。年一枚の年賀状が束になるほど、毎年こんな絵柄を送ってきたのだろうか。正月は冥土の旅の一里塚とはいうものの、よほどのヒネクレ者に違いない。差出人を見ると「乙三洞」とある。キノトミツ……と読みあぐねていると「おっさんどう、と読む。心斎橋の古書店主だ」と棚橋から助け舟がでた。奇矯な絵柄ではあるものの、数寄者揃いの古書店主同士の遊びと思えば、呼びつけにするほどのものではあるまい。もう一度、今度はていねいに見ていく。最初のものはずいぶん古い。大正である。木版刷り、芋版、プリントゴッコ、PC制作と移り変わっていくが、骸骨がモチーフなのは変わらない。大正・昭和・平成……いや、ちょっと多過ぎやしないか。「乙三洞の没年は昭和三十四年。まあ、その後も子息が続けたのかもしれないが」そうじゃない。平成二十九年、三十年、三十一年、まだある。「これは……」「新元号なんだろうな。へぇって感じだが」
 骸骨はますます盛んに嬉しそうに跋扈している。唐突に、英語表記の一枚が混ざる。そのあとは漢字のような記号のような読み取れない表記が続く。髑髏は空ろな眼窩を晒して呵呵大笑している。「……これから日本はどうなってしまうのでしょうか」そう言ったのは棚橋ではなく、つけっ放しにしたテレビに映るニュースキャスターだった