応募作152
「千鶴ちゃんの居場所」
潮闇 ユキ
千鶴ちゃんは五歳下の幼馴染で、私のことを「おねいちゃん」と慕ってくれていた。 彼女は小学生の頃より難病を発症し苦しんでいた。
いつも呼吸は荒く皮膚は爛れている。幼い頃の笑顔はそのままだったが、見てくれは散々だった。
「お医者さんがね、千鶴の病気を治す薬もうすぐできるから、もう少し我慢してって言ってるの」彼女がそう言う度、私は手を握り頑張ろうねと励ました。
「お医者さんがね、もうお薬ができるから、あと少し待っててって。でももう疲れた。」 高校生の彼女は、いつもマスクをしていた。
「毎日毎日ずっと我慢しているのに出口が見えないよ。私の身体は、病気が生きる為にあるのかな。自由になりたい。」私は何も言えなかった。
「人は死んでも魂は生きているんだって!この身体が無かったら自由になれそう。もし私死んだとしても、おねいちゃんには絶対会いに来るからビックリしないでね。」そんな事言わないで頑張ろう。そう言って彼女を抱きしめた。
それ以来、私は彼女に会っていない。
彼女は飛び降り自殺をしてしまった。
私の足元のコンクリートブロック。彼女が頭を打って死んだ場所。血の跡が残っていたが、やがて消えると小さく文字が浮かび上がってきた。
“出られない” 癖のある文字が彼女を思い出す。自ら命を手放した魂に自由は与えられないのか。しゃがみこんでコンクリートブロックの文字を撫でる。
昭和四〇年代、大阪のベットタウンに建設された高層マンションは、当時珍しく注目を浴びた。そして無防備な高層階の共用部に入り込んで飛び降りる者が続出した。
千鶴ちゃんのコンクリートブロックの傍にも、幾つもの小さな言葉が刻まれている。