応募作146
「黒い」
矢口 慧
面白いものを見せてやろうか。 大学の先輩に誘われて、彼のワンルームを訪問した。 六畳一間のフローリングに簡易キッチン、ベッドと、低いテーブル、その上にノートパソコン。貧乏学生の判で押したような家具と不釣り合いに、様々な機種のカメラが十台ほども並んでいた。 カメラ、趣味でしたっけ。 聞けば、別に、とあっさりと答えが返る。 「中のデータが面白いんだ」 そう、パソコンの電源を入れて、スライドショーを立ち上げた。 画面いっぱいに表示されたのは、家電量販店の店内と思しき画像だ。 変顔を作って映る男女、横顔をブレさせた中年の男。知らない人間の写真が延々と続き、間のように黒い画面が挿入する。 「な? 面白いだろ」 いや、別に。とも言えずに口ごもれば、先輩は一旦停止をすると、画面の隅を指した。 「ほら、ここに女がいるだろ?」 指の先に、女の後姿が映っている。 「黒いんだよ、この女」 場所を暗記しているのか、一枚ずつ、ここ、ほらここにもと、影のように見える女の位置を示す。 「メラニズムってしってるか? アルビノは真っ白だけど逆にメラニン色素で真っ黒になる。多分それだな。千日前のカメラ屋あるだろ? あそこの現品限りの展示品、メモリーカードごと買ったら初期化されてないデータに映ってて、面白いからそれからカードごと強引に買ってるんだ、あれ、全部そう」 並ぶカメラを親指で示すが、先輩の目はパソコンの画面に釘付けのまま、ほら、面白いと手を打つ。 ぱ、と黒い画像が映る。中央に薄く白い筋が入り、徐々に大きくなって、最後。 血走って見開いた目が、こちら側を、見た。