応募作142

「ドッグヨガ」

阿由葉ゆあ

 

 桜の散り終わった季節、ユイが大阪のとある公園を通り掛かると、ドッグヨガをやっている数人のグループがいた。
 ドッグヨガというのは、犬と飼い主とが一緒にするヨガだ。
 ユイも去年まで白いチワワを飼っていた。ヨガ教室に通っているユイは、ドッグヨガを一度、体験したいと思っていた。でも、ドッグヨガの存在を知った時には、もう、ユイのチワワは体調を崩していて、ヨガに連れて行ける状態ではなかった。
 ドッグヨガの一団は、青々とした芝生の上に、色とりどりのヨガマットを敷いて、それぞれにカラフルなウェアを身に着け、様々な犬種の犬たちと戯れていた。
 初夏の日差しが降り注ぎ、爽やかな風が吹いている今日、ドッグヨガをしたら、さぞ、気持ちいいだろう。
 少し離れた場所にベンチがあったので、遠目に見学しようと思い、ユイは腰を降ろした。
 ユイがチワワと死別したのは去年のこの季節だった。一昨年の冬から体調を崩していたのだが、「春になったら、花見に一緒に行こう」と言ったユイの願いを叶えた後、旅立ってしまった。
 あの子は、私が疲れていると、背中踏みマッサージとか、ふくらはぎを嘗め回してマッサージとか、よく私に気を使ってくれていたな、などと色々な記憶が次々に思い出された。
 他人から見ればキモイかもしれないけど、幽霊でいいから、あの子にもう一度、会いたいな。

「お姉ちゃん、こんなとこで寝てると風邪引くで」
 ヨガマットを持ち、黒いチワワを連れたおばちゃんに声を掛けられて、ユイは自分がうたた寝していたことに気が付いた。
「あ。ありがとうございます。ドッグヨガ、終わったんですね」
「せやで。ほな、お姉ちゃん、気ィ付けてな」
「はい。ワンちゃん、またねー」
 黒いチワワはユイと遊びたそうに後ろを振り向きつつ、おばちゃんに引っ張られ去って行った。
 自分も帰ろうとユイが立ち上がると、背中や足の疲れが取れていることに気が付いた。まるで、マッサージされた後のように。