応募作133

「小さなスナック」

胡乱舎猫支店

 

 あの娘が出て行く前の晩、呑んだんや。マスターが気ぃきかせてくれてこの奥でな。
「ほんま行くん?」
「ん、もう決めてん」
「なんでなん?……あんなぁ、そんなん誰も気にせぇへんて、なぁ」
「気にするわ、あたしが」
手袋の中の右手がむっちゃ蠢いとってな、グラス持つ度に氷がカラカラいうとったわ。
「……マスターどうすんの?」
「連れてかれへんて、わかるやろ?婆ちゃんかておんねんで」
灰皿にタバコが残ってたんやけど咥えただけで火ぃ点けへんかったんや、あの娘。口紅、もうつけんようになっとたんやなぁ。マスターが片付けるフリしてこっそりポケットに入れやったん知ってんねん。
結局あれからほんのちょっとの間でみぃんなこうなってしもて、あの娘は流行の最先端行っとっただけやねん。ホンマ、遅いか早いかの違いだけやったんや。
マスター?そやねん、追っかけて行きやってん、あの後。いやほんま言うと婆ちゃんに叩き出されたんやけどね。何処におんねやろね、今。後頼むとか言われてもうたけど、はよ帰って来て欲しいわぁ二人で。
ここらは昔からダンジョンとか言われとったんやけどホンマにそうなってもうたわ、って魔物はウチらかーい!……ちょお、笑うトコやでココ。
まあ、お陰さんで手ぇはこの通りやからなんとかやらせてもうてるわ。あ、おかわり作ろか?