応募作125

ドッペルゲンガー フロム 大阪?」

小野 創


「ちょっとなんでやねんって言ってみて」
ある日私はそう言われた。

その日私は街で知らない人に声をかけられた。人違いをされたらしい。
しかし否定してもその人は私が別人である事を認めようとしない。
「顔も服装もそっくりやん。こんなに似てる別人なんて怖くて認められへん」
と言うのがその人の主張だった。

どうすれば別人と分かってもらえるのかと困っていると
「でも確かに言葉に違和感ある…」と言う。
私と間違えた人は関西弁を話すらしい。私は関西弁は喋らない。そこに違和感を感じたらしい。
そこで私は関西弁を喋らされることになったのだ。
「なんでやねん…」
「いんとねぇしょんが違う!」
大阪の人はエセ関西弁に大変厳しいと聞く。こうして私は別人である事を認めてもらえたのだった。

それから周囲で、身に覚えのない私の目撃談が相次いだ。私にそっくりな人が出没しているらしい。
その人と会った皆には共通の違和感があった。
「関西弁で喋るんだよその人」
それで別人だと分かるらしい。
「でもほんとそっくり。あれはドッペルゲンガーなのかもって怖くなったよ」
私は先日の人違いの事もあって薄ら寒い気持ちになった。

そしてついに私の前にもそっくりの私が現れる。
電車に乗った時、もう一人の私がいた。確かに驚くほど似ていた。
あまり似ていると怖くなるもので、私は気付かないふりをしてやり過ごした。
相手も同じだったのかお互い接触する事なく過ごした。
先に相手の方が電車から降りていった。ただ、降りる直前に
「こっちきぃひんのか」
と独り言のように言った。それ後その人は現れていない。

後に関西出身の知人にこの話をした。
「それで私のドッペルゲンガーは大阪人だって言われてる」
「へえ不思議な話やね。ただその人、大阪の人と違うと思うで。『きぃひん』って言うのは京都やね。大阪やと『けぇへん』やな。地域にもよるけど」

今でも街で関西弁を聞くと気になって見てしまう。