応募作124
「カッちゃん」
御於紗馬
「橋本勝吉です。よろしくお願いします!」
大阪から転校生が来ると聞いていたので、僕たち―4年3組の全員―は本場の大阪弁が聴けると期待していたのだけど、カッちゃんの言葉はNHKのアナウンサーかテレビの俳優さんのような、訛りのない日本語だった。
「大阪弁、ちゃうやん!」
ヒラタが大声で突っ込んだけど、カッちゃんはちょっと笑っただけで席に着いた。今思えば、少し寂しげな表情だったかもしれない。 カッちゃんはボケたり突っ込んだり、おおよそ「大阪の人」らしい事はしなかったけれど、すぐにクラスに溶け込んだ。頭が良かったし何より明るかった。スポーツも出来たので腕っ節だけだったヒラタ達より全然人気があった。
面白くないのはヒラタの方で、何かとかっちゃんに突っかかっていたのだけど、大体、上手く行かずに悔しがってる姿しか覚えていない。カッちゃんが居なくなった後も、すっかり人望がなくなってたから、あまり印象に残っていないんだ。
そう、カッちゃんが居たのは半年程。急に大阪に戻ることになって、クラスでお別れ会を……した気がするけど、この辺は曖昧だ。
ただ、覚えているのは最後の最後の挨拶でカッちゃん。一気にこう言ったんだ。
「うわー。やっと普通に喋れるわぁ。ちょっと父ちゃんがやらかしたんで、むこうの言葉、取り上げられてん。ボケもツッコミもできへんし、ほんましんどかったけど、このクラス楽しかったわ。ほな、またな」
呆気にとられる僕らを後に、カッちゃん、そのままさっと帰っちゃったんだ。それで、彼とはそれっきり。
大阪出身の友人ができるたびにこの話をするのだけれど、誰に言っても「そんなん、美味しすぎるわ!」と返してくるだけで、真面目に取り合ってくれない。