応募作123

「河童の住める道頓堀に」

御於紗馬

 

  先日の大阪市議会に提出された「道頓堀川の水質浄化を向上させるために河童を放流する条例案」が物議を醸している。これはNPO法人「妖怪科学研究所」による提言で、同研究所の説明によれば「水生生物の中でも上位捕食者である河童を放流する事で水質悪化の原因である汚染物質を生物濃縮させ、河川の汚染を減少させる」とのこと。しかし、肝心の河童をどこから調達するのか、目処が立っていない。
 妖怪科学研究所は日本産の河童と中国産の水虎は伝承的にほぼ同等であり、中国からの輸入を検討していると話す。これに対して日本最大の河童保護団体「皿の会」は、中国産の水虎の食性は明らかではないが、日本の河童の食性は人間の血肉、魂、尻子玉など地域によっても異なり、国内の河童であっても放流は交雑や食性の変化による突然変異の原因となりうる。海外の存在ともなると環境への影響は計り知れないと懸念する。
 日本の河童が減少傾向にあるのは毎年発刊される「河童懲罰年鑑」に詳しいが、中国でも水質汚染の影響や美食家達による乱獲により水棲妖物の減少や絶滅が報告されている。国家の方針で実数などは明らかにされていないが、消息筋によると「竜の類はほぼ食べ尽くされた」との報告もあるようだ。日中ともに水虎の輸出入を禁止する法律はないが、実際にそれが可能かは別問題であろう。
 ここで一つ気になる噂がある。船幽霊の独立系団体『猛霊八惨』に、海上だけなく淡水にも進出しないかと持ちかけてくる者が後を絶たないというのだ。船幽霊を水虎と偽り、道頓堀川に導入するつもりではないか、そんな懸念が拭えない。
 大阪の海が悲しい色なのは、さよならを皆が捨てていくため、要は罪穢れが原因である。人間のエゴの為に妖怪を利用して良いものか、胸に手を当てて考えてみたい。