応募作120

「常連客」

浩光

 

大阪てのひら怪談「常連客」

夏の雨。夜8時頃。
タクシーの運転手のAさんは梅田の紀伊国屋書店からミナミへ男性客を乗せた。普段仕事に使っている車を車検と修理を兼ねて整備工場に出していたのでその日は、同じ会社の同僚の違う車種の車を借りていた
しばらく窓から外をボンヤリ眺めていたが、自分の隣のシートの空間に移した客の顔が一瞬強張り、しばし自分の隣の空間を凝視してたが、遠慮がちに話しかけてきた。

「運転手さん」
「ハイなんです?」
「・・・変なこと言うけど、笑わんといてな」
「どないしたんです?」
「・・・・俺の隣にお婆さん座ってるんやけど」

何を言い出すんやとドキッとしたが、そこは調子を合わせて平静を装って
「ああ、これ同僚の車を借りとるんです。なんかあったんですかね?わたしら鈍感なもんでなんにも見えんし感じませんわ」と笑った。実際Aさんは何も見えないし、何も感じなかった。

2週間後、Aさんは車を借りた同僚に、あの夜のことを冗談半分に話した。
すると同僚はこんなことを言った。
「ああ、それで思い出したけど、毎日その車で朝夕送り迎えしてた常連さんがおったんや。お婆さんやけどな」
「へぇ、そんな常連さんが・・」と言いかけてAさんはハッとして聞き返した
「・・・おった?」
「ああ・・・・亡くなったんや」
「・・・いつ?」
「ちょうど2週間前