応募作117

「女と焼肉」

洞見多 琴歌

 

「焼肉御馳走してくれるって言うから、鶴橋にでも連れて行ってくれるのかなって思った」
 図々しい奴だと、俺は内心でヨシミを罵った。
 お前に御馳走する義理などない。
「たくさん肉が手に入ってさ。俺の家の中で悪いけど、どんどん食べてくれ」
「ううん、コウくんの家がイヤだなんて、そう言っているわけじゃなくて」
 ヨシミはホットプレートの上で、じゅうじゅうと音を立てて焼けている肉をよだれを垂らしそうな顔でひっくり返す。ああいやだ、こんな女と思う。太っていて、意地汚くて、しかも、この俺に惚れている身の程知らず。
 仕方が無くだ。こんな事態に陥らなかったら、お前なんて顔も見たくない。
「ねえ、焼き肉一緒に食べている男女って、デキているんだって思われるんだって」
「へえ、そうなの」
 俺は曖昧に笑う。にたあ、とヨシミが笑う。
 笑うヒマがあったら食ってくれ。
 お前はそれぐらいしか役に立たないんだから。
「聞いたよ、ヤマダさんやタナカさんまで、この家に呼んでお肉を御馳走したんだって?」
「うん、日頃世話になっている二人だし」
「でも、この部屋の中で焼き肉ねえ。あのヒトが帰ってきたら怒らない? あんなひどい潔癖症、部屋に匂いつくのがイヤって、タバコをやめさせられたんでしょ? ほとんどビョーキだよねえ、コウくん、よくあんな女と住めてたねえ」
「リエは当分留守だよ。良いじゃないか。せっかくの焼肉なんだから、食べてよ」
 先日のリエとの大喧嘩と、その後始末を思い出して、俺はイヤな気分になった。
「コウくん、あまり食べないね」
 次々と焼けていく肉をタレにつけ、口に入れて頬張るヨシミを、俺はうんざりと眺めた。まるでカバのような女だ。だが、その肉を喰ってくれるのは有り難い。
出来れば全部食ってくれ。
「どんどん食べてくれよ」
「まあ良いわ、食べてあげる。あなたの事が好きだから」
 ヨシミは肉食獣のような目で、俺へ笑った。
「それにしても、この女の肉、不味いわね」