応募作113

「そのケモノとあのケモノ」

極北の山田

 

そのケモノにはあのケモノとは異なっている特徴がいくつかありました。
 
まず、人間の言葉を理解し、人間のように物事が考えられたのです。だからこそ、ケモノは自分があのケモノと違っているということに気づけたのでした。

そのケモノには肉体がありません。いや、あるにはあるのですが、ケモノ自身が得た知識と照らし合わせてみると、それは到底肉体とは呼びたくない異質なものでした。
 
ケモノは、言葉と思考を駆使して考えました。そして「私がこのように在るのは、人間の魂を喰らうからではないか?」という推論を導き出しました。
 
推論が正しいのかどうかは、ケモノにはわかりません。しかし、ケモノは自分がケモノであることを自覚していました。狩りを行い、「人間の魂」を喰らい、そして自分の子孫を増やしていく。…自分が知っている、肉体のある、あのケモノとはやり方が随分違っていましたが…そのケモノは、自分の得た推論に概ね満足していました。
 
ひとつ、ケモノには不満なことがありました。それは、餌である人間のメスが、ケモノを好き勝手な名前で呼ぶことです。

「チーター」はまだいい方です。しかし時には「タイガー」や「ピューマ」と呼ばれたりもして、ひどいのになると「ニャンコ」と呼んだりするのです。そのたびに、ケモノは自分が棲む土地の人間が行う「ノリツッコミ」をしてしまうのでした。
 
おや。人間のメスがケモノのエサになりにきたようです。人間は、ケモノの顔に魅了されることにより、ケモノに魂を食われてしまうのです。

「タガワさん!このカットソーええやん!ニーキュッパやで」
「ええ?ちょいハデやで?でも値段は惹かれるなあ。いや色違いもあるわ!こっちはあんたんとこのミッちゃんに似合うんちゃう?」
「あかんあかんー。あのコ最近肥えやってなー。あのコがコレ着たらいよんちゃんになるわ!」

「ガオー!て誰がらいよんちゃんやねん!ワシゃ豹ガラじゃ!」(全788字)