応募作102

「愛りん」

光  道進

 

大阪に始めて来た。

大阪出身の友達が案内してくれた。

ホテルや旅館を当たるが金のない俺にとってはきつかった。

友達は思い出したように
「あそこなら安く泊まれる。」と言うと案内してくれた。
ドヤ街の中を歩き1000円という
格安ホテルを見つけ宿泊する事にした。

部屋は3畳ほどの部屋だった。

友達が帰ると疲れがでて一気に寝入った。
どのくらい寝たか? 

廊下をゴソゴソ歩く足音に目が覚めた。
電気をつけるが点かない。

その内に「ドンドン」というドアを蹴飛ばすような音まで響いてきた。
俺はうるさいと思いドアをそーと開けた。

ドアの脇には通り過ぎようとする小柄なおやじがこちらを見ていた。
俺がドアを開けたのに気が点きツカツカと寄ってきた。

いきなり俺の前に手を出すと、「1,000円貸してーな」となれなれしく言って来た。
半分頭に来ていた俺は「見ず知らずの人にお金を貸すわけには行かない。」と断って
ドアを閉めようとすると親父は「そんな事言わんと」というとドアの隙間にすかさず足を入れて閉めるのを防いだ。

「なんて奴だ」俺はそう思って今まで見てなかった親父の顔を見ると
顔は青く目は死んだ魚のようにうつろだった。

「やばい」と思った俺はポケットの中の財布を取り出し1,000円札を一枚渡した。
「おおきに。おおきに」真黄色な歯をむき出し「二カー」と笑った。

もう用事が済んだと思いドアを閉めようとすると親父は「きっと返すさかいな」と言うと
廊下の奥に消えて行った。
朝が来た。
夜中のことを思い出すとまた寒気がしてきた。
友の後に続き歩く。首や肩がずっしり重い。
道端の宝くじ屋の前で俺の意思とは別に足が止まった。
どこからともなく声がした。「200円のくじ買いなはれ。」と声がした。
俺の意思とは別にクジを1枚買っていた。
クラッチを削ると当たり1000円が出てきた。そのとたん「返したデー」という声と共に俺の首や肩が一気に軽くなった。
不思議と損したような気分がつづいていた。