応募作97

「餌」

大和川葭乃

 

 鳥は恐竜の進化した姿だという。今こうして、アオサギを間近にしてみると、先日テレビで観た遺伝子操作で現代に復活した恐竜が人間を襲いまくる映画に出てくる小型の恐竜に似ていなくもない、と思えてくるから不思議なものだ。
 粉浜の商店街で買い物をした帰り道、私は住吉公園の池の端を歩いていた。黒い大きな影が頭の上を掠めていく。数羽のサギが左手の池に集まっていた。一人の老人が餌をばら撒いているのだ。小さなクーラーボックスからさびきに使うような小魚を池へ投げると、アオサギたちはくわぁくわぁとお互いを牽制しあい、大きな翼を羽ばたかせて池に落ちる前に魚を器用にキャッチする。ほんまはあかんねんやろな、と私は目の端でそれを追いながら歩いていく。野鳥の餌付けは禁止されているのだが、公園に集まる鳥たちに餌をやる人間はあとを絶たない。
 あいつら、なんでも喰いよるんやな。肉食恐竜の末裔やもんな。
 家に帰りつくと私は買ってきたものを冷蔵庫やストッカーに分類して片づけた。それから洗濯物を干しにかかる。
 妻は契約社員ながらフルタイムで働きに出ていて、帰宅は7時を回ることもある。子供たちはそれぞれ独立して家を出ているので、今は二人暮らしだ。リストラで会社を辞めてから2年になる。その間、仕事をしていないわけではなかったがこのご時世、一時雇用ばかりで長く続く仕事はなかった。今は主夫のようなことをして妻を支えてやるのが関の山だ。家のローンを退職金で払いきったことだけが救いのようなものだ。
 一人で昼飯の支度をする。以前は自分弁当を作るついでに妻は昼飯を用意していてくれたが、それもなくなって久しい。おかげで料理の腕は上がった。
そうや、買ってきたサバをさばくのに包丁を研ぐか。
 私はシンク下の包丁ホルダーから出刃包丁を取り出した。骨まで断てるように念入りに研いでやろう。
 あいつら、なんでも喰いよるもんな。
 私は妻の顔を思い浮かべた。