応募作96

「振り返ってはいけない」

夏目あみ

 

「難破橋の幽霊が出るって話知ってるか?」
彼女もいない仕事もできない貯金もない男の二人で

スマホをいじりながら生ビールを飲んでいた
「知らないです」
「戦時中に難破した船があったそうで出るらしいよ」
「え・・・なにがですか?」
「ライオンの動物の霊がでるらしいよ」
「うそでしょ」
「橋を渡ってる最中にスマホが鳴ったら近くにいるらしい」
「そんなアホな」
上司は強めに「振り返るなよ」と言った
「振り返るとどうなるんですか?」
「振り返ると・・・」
「振り返ると・・・」
ゴクリ
「あの世行きらしい」
「そんなアホな!」
「ガハハ!!じゃ、俺は難波橋を通らないんで!あばよっ!」
俺は一人で帰り道に難破橋の前に居た。
冬の寒さが身に染みる。
スマホが鳴った。
リリリン
俺の着信メロディーは黒電話ではない。
無視をして前へ進むと音は切れた
すると突然、
右肩を何かにたたかれた
振り返らず俺は言った
「な、なんだ!?」
返事はない
冷や汗が垂れまた着信メロディーが鳴りだした
リンリン!!
「うわぁ!助けてくれぇ~!!」
俺は走りだそうとすると右腕をつかまれた
「ひいいいっ!!!!」
なんだ!と思って俺は振り返ってしまった!!
「・・・っ」
「振り返ってはいけないっていっただろ」
「ん!!??んんんっっ!??」
よくみるとそれは先まで飲んでいた上司だった。
「ガハハッ!引っかかった!」
「ハァハァ・・・な、なにをするんですか、俺は本当に・・・」
「難破橋だけにナンパ!なーんちゃって!ガハハ」
冬の寒さがさらに寒くなる、極寒地点、絶対零度であった
鳴っていたのは会社から支給されたスマホだった
俺は尻もちをついて溜息混じりに叫んだ「な、なんでやねんっ!」
彼女もいない仕事もできない貯金もない俺たちは2件目の飲み屋へ
肩を組んで向かった
後ろに難破橋のライオンの像がついてきたことも知らずに