応募作95

「ナイトウォーカー」

れふにゅ

 

 今年の三月頃、夫から聞いた話。
「昨夜も今夜も、同じ人を見かけたんだ。女の人。昨夜は幼稚園の前で、今夜は車の工場前で。ご近所さんかなって思ったんだけど、全然知らない人だった。さっきすれ違ったときに目があっちゃったんだよ。そしたら近づいてきて、こっちに手をスーッと伸ばしてくるの。胸のあたりに。俺、避けた。超早く歩いて帰ってきた。なんだったんだろう、怖かった…魂抜かれるってああいうかんじかな」
それは一種の痴女ではないのかと私は邪推したが、夫は机に突っ伏しながら、思い出したように続けた。
「この寒いのに薄っぺらいTシャツ着ててさ。めっちゃポップな柄の。ええー、ほら、あの、あれ、なんだっけ? ストライプで…太鼓かなんか持ってるキャラいるじゃん…」
その夜以来、わが家で「くいだおれ太郎」の名が出ることはない。