応募作91

「閉店セール」

司條由伊夏

 

 いつでも閉店セールという店が、大阪にはある。「もうあかん、閉めます」と言いながら何年も何年も閉店セールを続け、「いつ閉めんの」と聞けば、「夜には閉めとる」と返されるような店が。だから本当に閉店してしまったのには驚いた。店のオヤジさんが亡くなったのだそうだ。「俺はこの店と一緒や。もうあかん」「いつ死んでもええ」「早よ死にたいわ」が口癖で、なかなか死にそうにない人だったのに。
 少しして店の工事が始まった。新しい店がオープンするらしい。しかし開店してまもなく、行われていたのは「開店セール」ではなくて、やはり「閉店セール」なのだった。
 店主はオヤジさんの友達だった人で顔見知りなので、わけを聞いてみた。
「ああ、ここは昔からいわくつきでな。閉店セールの場所なんや。新しかろうが古かろうが、必ず閉店セールで営業せなあかん。こんなとこで開店セールなんかやってみ、三日で潰れるで」
「そんなことってあるんですか」
「わしも半信半疑やったわ。せやけど、あいつがあんなことになってしもうたから……信じへんわけにはいかんわ」
「オヤジさん? 何があったんです」
「……あいつな、孫が生まれたんや。息子んとこ、結婚してから十年以上もできんくてな。もう諦めてたんが、いきなり。せやからもう喜んで喜んで……うっかりと言うてしもうたんや。あんなことさえ言わんかったらなあ」
「なんて言うたんです」
「この子が大きくなんの見たいなあ。長生きしたいなあ、て」