応募作85

「心霊スポットの噂」

宝屋

 

関西では会話の語尾に「知らんけど」とつける。これはほかの地域の人からしたら先ほどの話の真偽が混乱してしまうようでとても嫌われていた。

大阪の繁華街に割と有名な心霊スポットがある。しかしながら、「友達の誰某の知り合いが赤い女を見た」や「学校の先輩のいとこのお兄さんがここで老婆が追いかけられた」と幾多もの噂が先走りして結局分からずじまいの場所だった。

「ここでな、昔痴情のもつれで喧嘩したカップルがおってな、女が彼氏突き飛ばしたらな、ちょうど噴水広場の噴水のヘリに頭ぶつけて打ち所悪くてそのまま死んでしもうたんや」

そう言って隣に座っていたちょっと怒り肩と見まごう肩パットが入った派手な紫色のスーツ着た若い兄ちゃんが館内禁煙にもかかわらずプカプカとタバコをふかしながら語りかけてきた。

「俺のマブな、もーヤキモチ焼きでヤキモチ焼きで。隣に座ってたネェちゃんに喋っただけでコレや」

時間が経ったのか赤黒いねっとりした液体が兄ちゃんの後頭部から肩にかけてついていた。
ここの噂って確か赤いコートの女だったのでは?と兄ちゃんに聞くと、

「ああ、それ彼女ちゃうかなー。知らんけど」

そう言って目の前で消えた。
結局、真偽はわからずじまいだ。