応募作80

「和泉の歓声」

安童まさとし

私は、大阪の和泉にあるアパートの二階に住んでいます。
アパートのベランダから見下ろすと駐車場が広がっており、その向かいには公園があります。
公園ではいつも、近所の子供達が楽しそうにはしゃいでいます。
ある日のこと。 子供達の歓声を何気なしに聞いていると、その日はやたらと近くで声がすることに気がつきました。
声の距離からして、どうやら駐車場で遊んでいるようでした。
車をそこに止めている私は、傷つけられたら嫌だな。と気になりベランダに出ました。
途端、声が止みました。
え・・・。
駐車場を見下ろしてみても、誰もいません。
不思議に思いつつ部屋に戻ると、再びはしゃぎ声が聞こえてきました。もう一度ベランダに出ました。
その途端、また声は止みました。
そんなことを数回繰り返しました。
声たちは、私の行動に合わせるように止んでは聞こえてを繰り返していました。
数度繰り返したのち、自身の異様な行動に気がつきました。
自分は一体何をしているのだろう。ゾッとしました。
子供達の明るい声が聞こえてきました。
しかし、先程までとは様子が違います。
ただの騒ぎ声が、内容のわかる会話になっていました。
「気付いてるのかな」「一緒に遊びたいのかも」「誘う?」「誘おう」
アハハ、アハハと無邪気な笑い声に戻ると同時に、それらは移動を始めました。
アパートをぐるっと回るように、駐車場からその反対側に動いているようです。
反対側。
この部屋の玄関のある方向に。
入ってこようとしている。玄関からは逃げられない。鍵を閉めるか。閉めたところでどうにかなるものなのか。
・・・ベランダから飛び降りて逃げよう。
必死の思いでした。
ベランダに出て、なんの躊躇いもなく駐車場に飛び降りました。
なんとか無事に着地し、少しだけ安堵しました。
すると周りから、はしゃぎ声が聞こえてきました。
アハハハ、アハハハハハ、アハハハハハハハ。
「仲間に入れて欲しいの?」
そこからの記憶はありません。