応募作75

「小路の神社」

剣先あやめ

久しぶりに学生時代のメンツが3人そろったので、夜の難波へくりだす。1軒2軒とハシゴするうちに酔いも回り、気がつけば浮世小路という、並んで歩けないほど狭い場所にたどり着いた。「最近、こういう昭和っぽい造りの場所、増えすぎやな」「流行れば何でもええんやろ」軽口をたたきながら路地を歩いていると、先頭の田中が「こんなところに神社があるで」とすっとんきょうな声をあげて立ち止まった。見れば、鳥居と高さ50cmほどの社殿が壁画のように漆喰の壁に張りついている。イラストかと思ったら半立体的になっており、一寸法師大明神という社名らしきものも書かれていた。「なるほど、祀神が一寸法師ならこのくらいちんまい社殿でも十分やな」「おみくじもあるんか、ちょっと引いていこうか」田中の後ろを歩いていた小林が手のひらサイズの賽銭箱にちゃりんと硬貨を投げ込み、筒状に丸められたおみくじに手を伸ばす。「どうした、凶でもひいたんか?」「気にすんな。どうせあたりっこないんや」
おみくじを手に持ったまま口をぽかんと開け、ブルブルと震え出した小林に、私と田中がそう声をかけた。その途端「お前か、お前のせいだったんか」
すさまじい形相になった小林が、持っていたカバンで社殿や鳥居をめった打ちにし始める。「おい、何やってんねん」「バチあたるで」小林を引きずって何とかその場を離れたが、彼は「あれのせいか」「俺の三年間が」とつぶやき続け、そのまま難波の雑踏へ消えてしまった。小林が一寸法師大明神を再度壊しかけて捕まったと聞いたのはその3日後。灯油入りのペットボトルを持っていたとのことで、逮捕されたらしい。小林に親しい人に聞いたところ、確かに彼は公私にわたり何度も不運に見舞われた時期があったそうだが、それは神社が建立された2008年よりだいぶ昔のことだった。あの時の彼の顔が頭から離れず、私はあれ以来おみくじを引くことができない。