応募作72

「栖」

里上侑作

大阪の都市部から少し離れた田舎町。
二台分の庭に雀や鳩、椋鳥が一本の太い木に咲く花や果実を求めてやってきます。この家の一人暮らしのお婆さんは鳥がやってくるのが嫌で嫌でしょうがなかったのです。まわりの近所の方々は「鳥の鳴き声がいいね」、「春だね」などと言うけれど、お婆さんにしたら苦痛でしかありませんでした。 鳥の大量のフンや臭い、羽がたくさん落ちアレルギー持ちのお婆さんは眼や皮膚の痒みの症状が出たり、太い木の葉の茂みに巣を作り雛が産まれ鳴き声の合唱が一日中家の中にまで響き渡り寝不足にもなっていました。
お婆さんは悩んだ末、役場に相談に行き、駆除を頼みました。数日後、三人の業者の人が道具を持ってお婆さんの家にやってきました。業者の人たちは太い木に電気鋸の刃を入れ躊躇なく切りました。太い木が無くなったのを認めるとお婆さんの雲った顔が晴れました。
行き場を失った鳥たちは、この家に隣接する電信柱の電線に一列に並んでいました。お婆さんは夕食の買い出しに行くため外に出ると、一斉に鳥たちが鳴き出しました。そして翼を広げお婆さんに一直線に向かって行きました。鳥たちはお婆さんの髪をむしったり、嘴で顔や皮膚を突っつきました。お婆さんの叫び声や助けの声は、夕方で巣に帰る大量の烏の鳴き声で書き消され救いの声は全く届きませんでした。
鳥たちの影とお婆さんの影は絡み合い長く長く伸びていた。