応募作71

「カクテル」

里上侑作

大阪の営業の出張帰り、東京行きの新幹線の乗る時刻まで時間があった。
時間潰しに駅近くの小さなバーに入った。薄暗いオレンジ色の照明、カウンター席が五席、サックスのジャズ曲が流れ、店内は落ち着きがあった。右の奥の席に一人の白髪のスーツを着た紳士的な初老のかたが座っている。オールバックの髪形と赤い蝶ネクタイをした大柄な中年のバーテンダー。僕は左側の席に座った。
ウイスキーロックで」
バーテンダーに注文をした。すると初老のかたが私に近よりバーテンダーに声をかけた。
「私と同じ、カクテルを」
「えっ、私はウイスキーが飲みたいの
ですけど……」
と言うと初老のかたは自分のグラスを持って私の隣の席に座った。何か見たことあるような懐かしい感じがした。
「私の奢りだからいいでしょう」
と微笑みを浮かべた。
「まあ…奢っていただけるなら」
とても美しい青いカクテルが置かれた。
「これはブルーキュラソーのカクテルだよ。綺麗な色をしているでしょう。とても美味しいですよ、ぜひあなたと一緒に飲みたい」
僕は初老のかたと乾杯をした。さっぱりとしていて甘く爽やかさが口の中に広がった。初老のかたとは僕に話しかけてこなく僕も一言も話さなかった。たまに初老のかたは僕のほうを見て微笑んでいた。僕は飲み終わりお礼をすると
「一緒に飲んでいただきありがとう」
と初老の笑みを浮かべながら返事をした。
東京の家に着くと、母もちょうど玄関ににいた。
「今日、法事に行ってきたのよ」
「だれの?」
「私の父のよ、あっ!そうだ父の若い頃の写真が見つかって貰ってきたのよ、見てちょうだい!」
写真を見ると、写っていたのはバーにいた初老のかたとそっくりだった。懐かしい感じがしたのは…さっき飲んだあのカクテルの爽やかさが口の中に戻ってきた。