応募作69

「出張」

王 軽人

 海外出張を言い渡された同僚に嫌味を言った。 「ええなぁ、どこ行くんや。土産忘れるなよ」 「あ、うぅん…」 「なんや、嫌なんか!代わったろか?」 「出張がじゃないんよ。途中が嫌なんよ」 「え、何がやねん」 「特急『はるか』やねん」 「ラピート乗りたいんかい?」 「いや、うちの会社、総務がチケット手配してくれるやろ。オレ京都やから『はるか』に乗らなあかんやん」 「うん、まあな。でも特急『はるか』は乗ったけどええ電車やん」 「いや、出るのよ」 「何が?」 「幽霊が…」 「え?」 「窓の外からこっち見てるねん。何人もの幽霊が…。無視したよ。でも次乗った時窓を叩くんよ」 「信じられんけどさぁ。寝てたらええやん」 「それもした。でも体を揺らされて起こされんねん。そして耳元でこう言うねん。『通るな。通るな…』って」 「ずっとか?」 「いや、新大阪過ぎたあたりや。環状線に入る手前。あそこはアカン!」 「あ…」  私は気付いてしまった。彼が言っている場所、そこは昔梅田墓地があった所だ。彼のために内緒にしておこう。