応募作65

「灯」
中森臨時
「振り向くとそこには、殺したはずの女が」  さすがにネタ切れか。昨年の大阪てのひら怪談で賞を取った作品だ。  話を終えた直樹が輪の中心まで行き、一吹きで灯りを消す。  これで九十九話。残る蝋燭は一本。もう、自分の隣にいる友人の顔も判別できない。それでも誰が最後の一話を話すのか、目くばせしあっているのは気配で分かった。 「もうこの辺でええやろ。百物語ゆうても、最後の一話は話せへんのがしきたりらしいわ」  この声は恵吾か。一番の年長なので、何か起きた時の事を考えてのことだろうが、実は大の怖がりなのは誰でも知っている。  それでも、異論が出ない所をみると、みな内心では恵吾の言葉に安堵しているのだろう。物音ひとつ立たない中で、自然と視線は最後の蝋燭に向かう。   「遠慮のかたまり」  灯りが消えた。