応募作42
「動物園」
貝原
天王寺にある動物園でカバを眺めていたら、一人の男が歩いてきた。
男の肩には大きなフクロウが乗っていた。つい先ほど見てきた鳥の展示エリアにいたような丸顔のフクロウではなく、逆三角形の顔に、黒と金が羽根に斑に混じった、雄々しい一羽だった。
男は飼育員には見えなかった。いかにも三十代の無職といったような顔色の悪さと貧しい服装だった。
止まり木にしている男の肩から身体を軽くはみださせて、フクロウは窮屈そうに身じろぎしていた。肩の上のその猛禽に圧迫されて、男の首はだいぶ右に傾いていた。頭をまっすぐにすると、フクロウが乗りきらないのだ。
こちらに歩いてきた男が私のすぐそばまで来た。表情のない男と目が合い、同時に、フクロウの鋭く冷たい琥珀色の瞳とも目が合った。一瞬、羽ばたきが聞こえたかと思うと、男の肩の上のフクロウが消えた。そして次の瞬間、私の肩の上に、それがいた。
私は肩の上にフクロウを乗せたまま動物園を出て、地下鉄に乗った。地下を走る暗い窓ガラスに、肩の上の、まばたきをしない琥珀色の瞳が映っていた。地下鉄を下りて、アパートに帰った。
それからずっと、私はフクロウと一緒にいる。
――という話を、見知らぬ男から突然された。
園内のベンチに腰掛けて一休みしようとしたら、同じベンチの端にかけていたその男に話しかけられたのだ。
話しながらずっと、男の首はだいぶ右に傾いていた。