応募作40
「おばはん」
剣先あおり
部屋でぼんやり佇んでいると、がちゃがちゃと音を立てながら扉が開いた。
「あんた、また、こんなところでぼうっとして。何しとんねんな」
別に自分の部屋で何しようが、俺の勝手やろうが。
「ほんまあんた見てたら、心配なるわ。この子、何考えてんねやろて」
おばはんは現れたと思ったら、けたたましく機関銃のように喋りまくる。ピンクの生地に有名なキャラがでかでかとプリントされたTシャツが恐ろしく似合ってない。ええ年して恥ずかしないんか。
「このTシャツええやろ。うち、デズニー好きやねん」
おばはんはうっとりした顔で自分のシャツを眺めている。デズニーてなんやねん。思いっきりパチもんやないかい。
「あんたなあ、たまには外に出てお日さん浴びて、きれいな空気吸うてきたらどうや。こんな部屋で閉じこもっとるからそんな暗い顔なるねん」
この顔は生まれつきじゃ。何、好き勝手言うとるねん。
「このアパートにいてんの、爺さん婆さんばっかりやろ。あんたみたいな若い子がおるとこちゃう。ここでくすぶってたらあかん」
このおばはん、飴はくれんし、ムチばっかりや。
「うちはあんたの身内やないけどな、こんな風に言うてくれる人いてへん思うで」
そら、普通は言わんやろ。見ず知らずの人間にそないぽんぽんと言いたいことばっかり。大体、煎餅食いながらそんなん言われても説得力ないわ。
「何べんもいうけどな、ほんま、よう考えたほうがええで」
もう、とっくに死んどるゆうのに、くどいっちゅうねん。
「あんたのため思うて言うてんねんで」
たまらんなあ。