応募作20

「路地裏の蛸」

 泰子

 

 ぽとん。
 なんや?
 心斎橋筋の阪急百貨店前を歩いていると、目の前にたこ焼きが落ちてきた。
 周りを見回すが、たこ焼き屋もたこ焼き食いながら歩いてる奴もおらん。
 アジア系の外国人が、わあわあ解らん言葉で喋りながらスーツケースを引っ張って歩いているだけや。そんならこのたこ焼きはどこから湧いて出たんや?
 ぽとん。
 2メートルほど先にまた落ちてきた。
 上を見上げるが、秋の清々しい青空が広がってるだけや。
 ぽとん。
 誰も気が付いてないのか?
 それとも俺だけに見えるのか?
 だんだん側道に向かって行く。
 はは~ん、これは俺を誘ってるんやな。
 ぽとん。
 狭い路地の前に落ちた。なんや、受けて立ったろやないか。
 ぽとん。   
 路地を入ったすぐのところに落ちた。
 腕に自信のある俺は力強く一歩踏み込んで叫んだ
「誰や!」
 うわっ!なんやこれデカい!蛸や!にゅるん、大きな足に捕まった。逃げよ思ても次から次から足がやってきよる。
 ゴメン!堪忍や勘弁して!あかん!
 ばきばきじゅるじゅるぐりんぐりん ゴキッ!
「サッキカラ、アノロジニヒトガハイッテイクヨ」
「ナンカ、サプライズアルンジャナイ?イッテミル?」
「アノ、マルイノニ、ツイテイッタヨ」 
「アレ、タコヤキヤ」
「タコヤキッテ?」
「タコヤイテル、オクトパス」
「オオ!オクトパスッテ、アクマノツカイ。コワイ!コワイ!ヤメトコ」