応募作17

河内磐船駅の廃病院」

最東対地

 交野市にある河内磐船駅を降りたロータリーに車を停め、おれは友人の田中がくるのを待っていた。
田中は中学時代からの友人で、会うのは随分と久しぶりだった。
仕事の都合で地方に引っ越して以来、十数年ぶりの再会。
その機会に恵まれたのは、大阪へ転勤になったからだ。おれが家族を連れておれは大阪に戻ってきた。
新しい家は寝屋川だったが、交野市まで車でいけばほんの20分ほど。久しぶりに飯でも、ということでおれは田中の仕事終わりをここで待っている。
ふと車の窓から見える古い廃病院。ひと気もなく、ひっそりと佇むそれを眺めながらおれは懐かしさにため息を吐いた。
窓をノックする音に助手席側を向くと、田中が歯をだして笑っている。悪友は老けたが笑顔はそのままだ。
「おお、ご無沙汰やんけ。元気してたんかお前」
ああ、と簡単に答える。助手席に座った田中に車で来たことを批難された。酒を飲まない名目は、早く切り上げたいというおれ自身の意思も込められていたから仕方がない。正直、盛り上がるかも疑問だったから自ら予防線を張ったわけだが、それも杞憂だった。思いがけず楽しい時間は、すぐに終わりを告げた。
「そういえばあの廃病院、まだあったんやな」
田中を送る車の中で河内磐船駅にあった廃病院を話題にだした。
すると田中は怪訝な顔をして「廃病院?」と首を傾げる。あの廃病院は、中学時代から心霊スポットとして肝試しには格好の場所だったからだ。
あれから数十年、未だにあるとは思っていなかった。
「廃病院ってなんや。あそこにあんのはいまコンビニやろ」
予想外の返答に思わず笑いながら、そんなはずはないと言い返した。田中は納得いかないと言った様子だったが、最後は笑って別れた。
ふぅ、と溜め息を吐き、それにしてもあいつは辺鄙なところに住んでるなと思いながら田中の家を見上げる。
――変わらないな、この病院も。