応募作14

「河童のおっちゃん」

花月

ワシ 河童やねん。
夏休みの解放プールで、上手に泳ぐおっちゃんは 小学生の私にそう言うと 泳ぎを教えてくれた。
ソフトボールの練習もみてくれたし 近所の祭りも手伝ってたから町内会の役員でも引き受けてはったのだろう。

ある日、私の隣の家が建替えるとなったとき 蛇が出た。
大きな木もあったから棲んでたんやろな。
隣の家の人は、蛇を殺したんだと聞いた。
「殺さんかて そこの土手に逃がしたらよかったのに。」
河童のおっちゃんは そう言う。

その日から 夜寝てると ズルズルと足をするような音で目を覚ます。
「なんなんやろ…誰か隣の家見に来てんのやろか。」

ズルズル ズルズル ズルズル

またや…。

家も庭も壊され 何もなくなった隣を見ながら 河童のおっちゃんに その話をした。
「こないだ殺された蛇の嫁やな。探しとるんやな。せつない せつない。」とタバコをふかし去って行った。

新しく家も建った頃 隣の息子が結婚したらしく 家にも挨拶に来た。
「お嫁さんは きれいな人やったで。」
私は河童のおっちゃんに 教えるとブルブルっと身ぶるいし
「蛇の嫁が来たんやな。」
驚く私に 河童のおっちゃんはつづけた
「しゃあないし 嫁に行けや って 勧めてんや。」
「…。」
「せやから ワシ河童やねんて。」

子供の頃 住んでいたのは 京阪電車の大阪方面と京都方面を結ぶ真ん中あたりが最寄り駅。
大昔は沼地やったと聞いたから
きっと おっちゃんはほんまに河童やったんかもしれない。